『ワンバト』や「アドレセンス」が席巻した「第83回ゴールデン・グローブ賞」を振り返り!『鬼滅の刃』プロデューサーに当たった意外なスポットライトとは?
ゴールデン・グローブ賞からひも解く2026年の“ハリウッドの実像”
今年の授賞式で印象的だったのは、ベテラン俳優たちの健闘である。ノア・ワイリー、ジーン・スマート、ステラン・スカルスガルドといった実力派が次々と受賞し、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツがプレゼンターとして登場したことで、かつてのハリウッド黄金期への郷愁が会場に漂っていた。
皮肉なことに、クルーニーが主演したNetflix作品『ジェイ・ケリー』(25)は、急速に消えゆくハリウッドのスターシステムへの惜別を描いた作品である。また、テレビシリーズ部門で人気を博した「ザ・スタジオ」も、変化するビジネス環境のなかで純粋な芸術性を守ろうとするスタジオ社長の悲喜を描いている。
ワーナー・ブラザースは、『ワン・バトル・アフター・アナザー』、『罪人たち』、そしてHBOの「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」で主要部門を席巻した。しかし、スタジオ自体の将来については、依然として不透明感が漂っている。ハリウッド全体が政治的、技術的な激変期を迎えるなかで、今回の授賞式は、業界全体が防御的な姿勢を取っているようにも映った。
今年、最も物議を醸したのは作曲賞の扱いだった。授賞式直前にDeadline誌が報じたとおり、作曲賞は時間的制約を理由に生放送では発表されず、『罪人たち』のルドウィグ・ゴランソンの受賞がオンラインのみで公表されるという異例の措置が取られた。
1週間前に行われたクリティクス・チョイス・アワードでも、国際長編映画賞がレッドカーペットで授与されるという出来事が起きている。『シークレット・エージェント』は昨年のカンヌ映画祭で監督賞、男優賞、国際批評家連盟賞などを受賞しており、同賞でも複数部門にノミネートされていたクレベール・メンドンサ・フィリオ監督に、レッドカーペットのインタビュー中に国際長編映画賞のトロフィーが無造作に手渡された。
その後、作品賞のプレゼンターとして登壇したフィリオ監督と主演のワグネル・モウラは、英語作品が並ぶノミネート作を紹介する際、「(この作品賞こそが)ブラジルでは国際長編映画ですけどね」と語り、授賞式最大の笑いをさらったという。
「あらかじめ決められた放送スケジュールからの解放」は、Netflixがかつて宅配DVD事業から配信事業へと舵を切った際に掲げた理念だった。放送時間に合わせるために発表部門を制限したり、受賞スピーチを短縮するための工夫は、ゴールデン・グローブ賞やクリティクス・チョイス・アワードに限らず、アカデミー賞においても長年の課題であり続けている。
この「放送時間制限」からの解放は、2028年からアカデミー賞の生中継がABCからYouTubeへと移行する決定とも無関係ではないだろう。より柔軟な配信プラットフォームへの移行は、すべての受賞者に等しく敬意を払い、国際映画をはじめとする多様な作品を適切に扱うための、新たなハリウッドの幕開けを示唆している。その一方で、老舗スタジオは配信プラットフォームへと飲み込まれていく。こうした矛盾した空気感こそが、2026年のハリウッドの実像なのかもしれない。
<主要受賞作品・受賞者一覧>
●映画部門
作品賞(ドラマ):『ハムネット』
作品賞(ミュージカル・コメディ):『ワン・バトル・アフター・アナザー』
監督賞:ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
脚本賞:ポール・トーマス・アンダーソン(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
主演男優賞(ドラマ):ワグネル・モウラ(『シークレット・エージェント』)
主演女優賞(ドラマ):ジェシー・バックリー(『ハムネット』)
主演男優賞(ミュージカル・コメディ):ティモシー・シャラメ(『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』)
主演女優賞(ミュージカル・コメディ):ローズ・バーン(『If I Had Legs I'd Kick You(原題)』)
助演男優賞:ベニチオ・デル・トロ(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
助演女優賞:テヤナ・テイラー(『ワン・バトル・アフター・アナザー』)
作曲賞:ルドウィグ・ゴランソン(『罪人たち』)
アニメーション映画賞:『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』
主題歌賞:「Golden」(『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』)
興行成績賞:『罪人たち』
非英語映画賞:『シークレット・エージェント』
●テレビ部門
ドラマシリーズ作品賞:「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室」
コメディシリーズ作品賞:「ザ・スタジオ」
リミテッドシリーズ作品賞:「アドレセンス」
主演男優賞(ドラマ):ノア・ワイリー(「ザ・ピット/ピッツバーグ救急医療室』)
主演女優賞(ドラマ):レア・シーホーン(「プルリブス」)
主演男優賞(コメディ):セス・ローゲン(「ザ・スタジオ」)
主演女優賞(コメディ):ジーン・スマート(「Hacks(原題)」)
主演男優賞(リミテッドシリーズ):スティーヴン・グレアム(「アドレセンス」)
主演女優賞(リミテッドシリーズ):ミシェル・ウィリアムズ(「人生の最期にシたいコト」)
助演男優賞:オーウェン・クーパー(「アドレセンス」)
助演女優賞:エリン・ドハティ(「アドレセンス」)
ベストポッドキャスト賞:「Good Hang With Amy Poehler」(エイミー・ポーラー)
スタンドアップコメディ・パフォーマンス賞:リッキー・ジャーヴェイス「リッキー・ジャーヴェイスのどうせ皆死ぬ」
文/平井伊都子
