『小川のほとりで』のキム・ミニやクォン・ヘヒョ、『教授とわたし、そして映画』のチョン・ユミ…韓国の鬼才ホン・サンスの作品で輝くアクターたち

コラム

『小川のほとりで』のキム・ミニやクォン・ヘヒョ、『教授とわたし、そして映画』のチョン・ユミ…韓国の鬼才ホン・サンスの作品で輝くアクターたち

『豚が井戸に落ちた日』(96)でのデビュー以来、ほぼ1年に1本ペースで新作を撮り続けてきた韓国の鬼才、ホン・サンス。監督生活30周年、作品数も30を超えたなかで、ここ2~3年の新作が毎月公開される「月刊ホン・サンス」のような企画が催されるのは、ファンとしても同慶の至りである。

ほぼ1年に1本ペースで新作を撮り続けている韓国の鬼才、ホン・サンス
ほぼ1年に1本ペースで新作を撮り続けている韓国の鬼才、ホン・サンス

彼の過去作の多くにおいて、主人公は映画監督だ。「売れていない」ため、大学講師などで糊口をしのぎ、酒を延々と飲んでは、女性にだらしなくうつつを抜かす。そんな主人公を軸にしたグダグダな恋愛劇を、独特の長回し、奇妙なタイミングでのズームやパンを駆使して描いている。しかし近作では、だいぶ様相が違ってきた。この辺りにも触れつつ、ホン・サンス作品の常連俳優たちをピックアップする。

変化したホン・サンス作品に明るく紳士的な個性が合致したクォン・ヘヒョ

サンスのキャスティング方法は極めてユニーク。過去の出演作を観て俳優にオファーすることはまずない。実際に会って、その俳優個人が持つ“なにか”を感じることを、大切にしている。そうして選ばれたのが、歴代の常連俳優たち。男優ならば、故イ・ソンギュン、ムン・ソングン、チョン・ジェヨン、キム・テウ、キム・サンギョンら。

そんなそうそうたる面々を差し置いて(?)最近、独壇場の感があるのが、クォン・ヘヒョだ。日本では、ブームになったテレビドラマ「冬のソナタ」でペ・ヨンジュン演じるチュンサンのよき先輩、キム次長を演じたことでお馴染みの顔となった。

ホン・サンス作品には『3人のアンヌ』(12)以来、常連に。そのきっかけは、監督がたまたま観に行った舞台に出演していたことだったのだが、舞台での演技が気に入って…というわけではない。後日2人で昼から夜遅くまで、記憶が無くなるほど徹底的に酒を飲んだことが、決め手となったようである。

ヘヒョは、主人公の叔父であるシオンに扮している(『小川のほとりで』)
ヘヒョは、主人公の叔父であるシオンに扮している(『小川のほとりで』)[c]2024 Jeonwonsa Film Co. All Rights Reserved.

ヘヒョが演じる役は、やはり映画監督が多いのだが、かつてのホン・サンス作品に登場した“ダメ恋愛”劇の主人公たちとは、様相を異にしている。酒をしたたかに飲むのは変わらねど、その勢いでグダグダなダメ恋愛に突入するわけではない。『小川のほとりで』(24)ではキム・ミニが演じるヒロインの叔父であり、著名俳優の役に扮している。女子大の講師をしている姪の頼みで、学生たちの演劇の演出を務めるが、その視線は、“父親”のそれに限りなく近い。

彼が恋に落ちる相手は、姪の恩人である独身の女性教授。妻と離婚していることを明らかにしたうえで、酔った勢いでの不埒ではないことを、姪にきちんと説明する。なんと言うか、実に折り目正しいのである。


映画監督役だった『WALK UP』(22)でも、主役でありながら、登場する女性陣をフォローする側に回っている。ヘヒョは「私が出演する以前の(ホン・サンス)作品とは多分、合わなかっただろうなと思います…」と語っており、監督もそれに同意している。サンスの作風の変化が、ヘヒョの明るく紳士的な個性と合致したのだろう。

主役でありながら女性陣をフォローする側に回っている(『WALK UP』)
主役でありながら女性陣をフォローする側に回っている(『WALK UP』)[c] 2022 JEONWONSA FILM CO. ALL RIGHTS RESERVED