『PROJECT Y』で来日したハン・ソヒ。『12月の君へ』「わかっていても」「マイネーム: 偽りと復讐」で見せた無彩色の個性
暗い道を歩む女性たちが心の奥に秘める虚無を体現
ドラマで注目度を高めていったソヒだが、ブレイクの始まりとなったのが「夫婦の世界」での不倫相手役だった。医師の妻と映画監督の夫を巡る不倫ドラマで、妻役の実力派俳優キム・ヒエに引けを取らない悪女キャラで視聴者に印象づけた。続いて大きな注目を集め、ソヒが本格アクションに初挑戦したのが、Netflixオリジナルドラマ「マイネーム: 偽りと復讐」だ。ソヒは、裏社会の構成員でありつつも優しかった父を目の前で何者かに殺されたジウを演じた。警察組織にいるであろう真犯人を突き止めるべく名前を“ヘジン”と変え、父の親友で組織のボスであるムジン(パク・ヒスン)の後ろ盾を得ながら強力班(凶悪犯罪などの刑事事件を担当する課、日本でいう「刑事課」)の刑事として潜入する。
インタビューで「私は運動の“運”の字も知らないくらいだったんです」と自身で振り返るほどの彼女が、序盤から多くの暴力に立ち向かい、キレ味のあるアクションを繰りだすジウを演じ切った理由は、ノワールが好きであるということ、そして「アクションというジャンルに限ったものでも、周りの人物によって揺さぶられる人物でもなく、女性が主体的に導いていく作品をいつもやりたいと思っていた」からだった。まさに、女性2人が自身たちのために行動する『PROJECT Y』は彼女にとって念願の作品だったのではないだろうか。
また、ジウの表情がアップで捉えられるたび、肌の質感や薄い皮膚から血管が透けている。メイクをしないのはソヒの提案で、素顔のままで演技をすることに抵抗はまったくなかったそうだ。「ジウというキャラクターはなぜかそうしなければならないと思いました。素顔というよりは生の感じが表現できたら」と役作りへの思いを明かしている。ノーメイクで挑んだことにより、大切な存在を奪われ、自身の名前も感情も捨て去った彼女が身一つで死闘に投じていく凄みが一層増しているように感じられる。
ソヒが、才気走る女性キャラを演じていたほかの作品といえば、Netflixオリジナルドラマシリーズ「京城クリーチャー」だろう。本作では、日本統治下で人捜し業をしながら自身の母も捜す女性チェオクに扮した。「京城クリーチャー」は、現代劇だった「マイネーム: 偽りと復讐」とは武器やファイトスタイルが異なり、例えば日本軍の施設に忍び込むために屋根伝いに飛び上がるなど、上下のアクションが必要だったが、ソヒは大胆な姿を見せている。
本作のシーズン2では、日本軍による人体実験の犠牲として怪物にされてしまったチェオクの母の身体を取り込み、不老不死の生命体として現代を生きるチェオクが、かつて生死を共にしたテサン(パク・ソジュン)にそっくりなホジェ(ソジュン/二役)と再会する。「こうして私は地獄に取り残され、忘れ去られた」と口にしたセリフのように、夢見ていた国家の独立を勝ち取ったものの、再び悲劇の歴史が繰り返されていることを知ったチェオクの虚無的な眼差しが印象的だ。あまりに大きなものを背負い現代を見つめているチェオクがふとした時に見せた、ホジェに写るテサンの面影にハッとする表情は、普通の女性としての生々しい感情が見事に表現されていた。

