『港のひかり』舘ひろしと笹野高史が富山刑務所で講話。挫折からの再生経験、渡哲也や渥美清への感謝を語る

『港のひかり』舘ひろしと笹野高史が富山刑務所で講話。挫折からの再生経験、渡哲也や渥美清への感謝を語る

映画『正体』(24)で第48回日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した藤井道人と、名キャメラマンの木村大作が初タッグを組んだ、舘ひろし主演映画『港のひかり』(公開中)。主演の舘と共演の笹野高史が11月19日に本作のロケをした富山刑務所を訪れ、受刑者に向けた講話を実施した。

主演の舘ひろしが演じるのは、ひっそりと孤独に暮らす漁師、三浦
主演の舘ひろしが演じるのは、ひっそりと孤独に暮らす漁師、三浦[c]2025「港のひかり」製作委員会

2023年11月~12月まで長期にわたって石川県、富山県を舞台に撮影を敢行した本作。実際にロケ撮影をした富山刑務所ということで、舘は、「映画『港のひかり』の撮影でここ富山刑務所をお借りし撮影させていただきました。撮影にお邪魔したのは、2023年の12月、雪の降る日でした。私は普段刑事役が多いのですが、今回は皆さんと同じ立場を演じさせていただきました。本当に印象的だったのは皆さんの所内での歩き方です。当初、台本に所内を歩くシーンは無かったのですが、皆さんの姿を見て急遽シーンを追加しました。今日は本当に貴重な機会であると感じております」と挨拶。

笹野は、孤独な三浦を見守る漁業組合の荒川役
笹野は、孤独な三浦を見守る漁業組合の荒川役[c]2025「港のひかり」製作委員会

本作で、漁業組合の会長、荒川を演じた笹野も「舘さんと同じく『港のひかり』の撮影時には大変お世話になりました。とてもとても恐縮しているのですが…皆さんがなにかを感じていただければいいなと思っています。今日はよろしくお願いします」と挨拶をした。

ともに俳優として長く活躍してきた舘と笹野。舘は「私は、いま75歳で、俳優デビューしてから50年になります。本当にあっという間だと感じています」と語り「映画は1人でできるものではなく、様々な人が力を合わせて作り上げるものです。皆様の支えがあってこそ、今の私がいると痛感しています。長く俳優を続けられたのは、いつも自分が100%できたという記憶がなく、今度はもっと上手くできる気がするという気持ちでい続けることができたからだと感じます」と長いキャリアを振り返る。

【写真を見る】富山刑務所の受刑者に自らの体験談を語りかける舘ひろしと笹野高史
【写真を見る】富山刑務所の受刑者に自らの体験談を語りかける舘ひろしと笹野高史[c]2025「港のひかり」製作委員会

笹野は「俳優はオファーがないと続けることができない仕事なんです。それはつまり自分1人じゃなにもできないということ。もちろん家族にも助けられてきました。もう77歳になりましたが、セリフが覚えられなくなるまでは続けたいと思います」とコメント。

また、俳優生活を長く続けられたのは渡哲也の言葉がきっかけだという舘は、「私が俳優としてこれからやっていけるかどうかという時に、テレビドラマ『西部警察』で渡さんと初めてご一緒しました。撮影が始まってしばらくした時に渡さんが『ひろし、お前には華がある』と言ってくれました。本当に大きな自信となりましたし、その言葉を頼りにいままでやってきたような気がします。『西部警察』の撮影中、私が何度NGを出そうが怒ることはなく見守ってくれましたし、『ひろし、芝居なんて上手くならなくていい。お前自身でやれ』と言葉をかけてくれたんです。いま私がこうしているのはすべて渡さんのおかげだと思います」と感謝の想いを伝えた。

受刑者へ激励の想いを言葉にした2人
受刑者へ激励の想いを言葉にした2人[c]2025「港のひかり」製作委員会

俳優という仕事のやりがいを聞かれた笹野は、「『人の人生を変えてしまうこと』です。以前ジャズトランぺッター役を演じたのですが、その作品を見たある方が実際にジャズを仕事にしているんです。映画に触れた人の人生を変えてしまう可能性がある、影響を与えてしまう仕事なんだと感じる出来事でした。俳優という職業にプレッシャーを感じましたし、逆にやりがいを感じました」と実体験と共に語った。

2人の挫折経験や挫折から再起する方法を問われると、舘は代々、医者家系の長男に生まれ、周囲からも医者になることを期待されながらも応えられなかったエピソードを披露。「自分もきっと医者になるだろうと甘く考えていたんです。結局勉強もしないまま医大に2度挑戦して不合格。家族の期待に応えられなかった挫折感も大きかった。ただ、挫折というのは次にジャンプするための準備だと思うんです。ただ立っているだけでは高く飛べませんが、一度沈み込んでジャンプすることでより高く飛べる。挫折を糧により高く飛ぶことができると考えています」と自身の挫折体験と共に、前向きな言葉を投げかけた。

笹野は、俳優として主役を演じることを目標に懸命に努力していた際に、演出家にかけられた言葉と、その挫折から立ち直ったエピソードを披露。「ある演出家に『笹野さんは脇で光るタイプ。主役を目指したら駄目』と言われ、ショックと悲しみから涙で一晩、枕を濡らしました。やっぱり役者をする以上は主役を演じたいですから。でも、決めたんです。考え方を変えて、日本一の脇役になろうと。カメレオンのようなどんな役でも演じることができる俳優になろうと決意を新たに頑張ることにしました」と述べ、自身が求められる役割を果たすことの大切さを伝えた。

表彰状を受け取る舘ひろし
表彰状を受け取る舘ひろし[c]2025「港のひかり」製作委員会

『港のひかり』に描かれた自己犠牲の精神。舘演じる主人公の三浦は、裏の世界で生きてきたかつての人生を捨て、ひっそりと孤独に暮らす漁師という役どころだ。そんな三浦は盲目の少年と出会い友情が芽生え、三浦は少年のために我が身を厭わず生きることを決めた。そんな本作を通して受刑者に伝えたいことを聞かれると舘は、「自分のために生きることは素晴らしいことです。ただ、自分ではないほかの誰かのために生きることはもっと素晴らしいことであり、美しいことです」と話したあとに、「男っていうのは弱いものだと思います。弱い男が、それでも強くあろうとする男がそこにいることが、すごく大事なことなんだと思います。私は強くあろうとする男でいたいと考えています」と熱を持って語った。

作品にちなみ、2人に光を与えてくれた人物について問われると、舘は「やっぱり渡哲也さんですね。とにかく渡さんと出会えたことが、私の人生のすべてのような気がします」と、自身の俳優人生を照らしてくれた大先輩に感謝を伝える。

表彰状を受け取る笹野高史
表彰状を受け取る笹野高史[c]2025「港のひかり」製作委員会

笹野は「渥美清さんですね。まだ俳優として駆け出しのころに渥美さんが声をかけてくれて、芝居を褒めてくれました。そこから一緒に芝居を見て、食事に行くようにもなりました。心の師匠のような存在です」と、日本を代表する名優への想いを口にした。

最後に2人は、受刑者へ激励の想いを言葉にした。舘は「強くなくていいんです。強くなろうとしてください。今日は本当にありがとうございました」と言うと、笹野は「待っている方のためにも、どうかお身体を大事にしてくだい」と優しい言葉を投げかけ、講話は終了した。 なお、受刑者への講話を終えた舘と笹野に富山刑務所からは、感謝状が手渡された。

文/山崎伸子

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