実写ならではのノスタルジーを与えつつアニメの魅力も再現。『秒速5センチメートル』から感じる徹底的な原作へのリスペクト
新海誠監督の初期代表作が実写映画としてスクリーンに帰ってきた。18年前に公開された『秒速5センチメートル(2007)』(07)は、思春期から大人になるまでの男女の心の距離と速度を描いたラブストーリーで、新海監督が描く世界観の原点とも言われる劇場アニメーションだ。いまだ多くのファンに支持されている名作がどう実写化されたのか、見どころをチェックしたい。
“現在”を進むアニメ版と、“思い出”を綴る実写版
システムエンジニアとしてがむしゃらに働いていた貴樹(松村北斗)は、人と深く関わることを避けるように暮らしていた。時折彼の脳裏に浮かぶのは、小学生の時に出会った明里(白山乃愛)の思い出だった。ある日、貴樹は高校時代の同級生である花苗(森七菜)の姉で高校の恩師だった輿水美鳥(宮崎あおい)と偶然再会。貴樹と食事をすることになった美鳥は、自分と同じ職場で働く明里(高畑充希)に一緒に行こうと声をかけるが…。
アニメ版は「桜花抄」、「コスモナウト」、「秒速5センチメートル」の短編3話からなる連作オムニバス。それぞれ小中学生、高校生、社会人の貴樹を中心に、せつないラブストーリーが綴られる。長編映画になった本作では、社会人パートをベースに小中学生時代、高校時代を回想シーンとして挿入。時間軸を行き来しながら、大人になった貴樹や明里の物語として再構成されている。それぞれのエピソードを“現在”として描いたアニメ版に対し、実写版では子ども時代から青春期までを思い出と位置づけて空気感を変えて描いているのが特徴だ。映画はフィルム撮影を思わせる柔らかいトーンで統一。さらに過去パートではオールドレンズを使ったような甘めの解像感になり、逆光カットでは積極的にゴースト(光の乱反射)を取り入れるなど、ノスタルジックな味わいを深めている。
ただしこれら過去パートにおけるアニメ版の再現度は非常に高い。たとえば貴樹と明里が学校帰りに通る桜の木のある小道や参宮橋踏切、明里が泣きながら引っ越しを告げる公衆電話、2人が再会する岩舟駅、種子島で貴樹と花苗が目撃するロケットの打ち上げなど、名シーンの数々が画角を含め実写で再現されている。
時速5キロメートルでゆっくりと進むロケット運搬カットも原作通りで、実写映像としてスクリーンで目の当たりにするとその大きさと迫力に圧倒される。監督は、CMやミュージックビデオで活躍し、短編映画や写真でも多くの受賞歴を誇る奥山由之。オムニバス映画『アット・ザ・ベンチ』(24)も話題を呼んだ奥山監督にとって、本作は初の商業長編映画である。撮影にあたり奥山監督は、アニメ版のアングルやカメラワークをすべて書きだし徹底分析。一つ一つのシーンがピースとして物語になじんでいるのは、映画そのものが原作へのリスペクトの上に立っているからだろう。
