8月26日は「ふろの日」!『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』ベニチオ・デル・トロが驚愕したオープニング入浴シーン撮影秘話
アカデミー賞俳優のベニチオ・デル・トロ主演、ウェス・アンダーソン監督最新作『ザ・ザ・コルダのフェニキア計画』が9月19日(金)より公開される。本日8月26日が「ふろの日」ということで、アンダーソン監督ならではのこだわりが詰まった、オープニングの入浴シーンにまつわる撮影秘話が到着した。
本年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作である本作は、5月30日よりスタートしたUS先行公開で、劇場あたり平均9万5,000ドル=約1,355万円(1ドル=142.6円)と、今年の限定公開作でトップの館アベレージを取得。その後の拡大公開では、興行収入ランキングベスト10入りを果たし、世界を席巻中だ。今年3月に、監督作品を構成する品々を紹介する書籍「ウェス・アンダーソンの世界展 -The Museum of Wes Anderson-」が発売されるなど、日本でも根強い人気を誇るアンダーソン監督。今回は、『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(21)にも出演したデル・トロを主演に迎え、ケイト・ウィンスレットの娘で俳優のミア・スレアプレトン、『バービー』(23)でアランを演じたマイケル・セラ、アカデミー賞ノミネート俳優のリズ・アーメッドらウェス組初参戦のキャストと、アンダーソン作品の常連となるトム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、ブライアン・クランストン、マチュー・アマルリック、ジェフリー・ライト、ルパート・フレンド、ホープ・デイヴィス、そして物語の重要なカギを握る人物にベネディクト・カンバーバッチと超豪華キャストたちが競演した。
物語は、デル・トロ演じるヨーロッパの富豪、ザ・ザ・コルダが疎遠となっていた娘で修道女のリーズル(スレアプレトン)を後継人に任命したところから始まる。画策していたビジネスの危機的状況を打開すべく“大独立国フェニキア”を旅する間に様々な事件(特にザ・ザ自身の暗殺計画も含む)に巻き込まれていく、というクライム・ファミリー・コメディ。物語後半では、カンバーバッチ演じるヌバルおじさんとザ・ザ・コルダの決死のバトルも繰り広げられるなど、一瞬たりとも見逃せない作品になっている。
解禁されたのは、主人公ザ・ザの優雅なバスタイムシーンにまつわるエピソードだ。“スローモーション”なのに裏では“超高速芝居”をしていたというオープニングクレジット撮影裏話を、デル・トロが明かす。
ザ・ザが、通算6度目の墜落から生き延びるというインパクト抜群なシーンから物語が幕を開ける本作。オープニングクレジットでは、墜落でケガをしたザ・ザが自身の屋敷のバスルームで療養する様子が映し出される。包帯を巻かれ、ケガだらけのザ・ザが、バスタブのなかで本を読み、タバコを吸い、食事を摂り、優雅な時間を過ごしている。そんななか、看護師や家政婦たちが、ザ・ザの周囲をバレエのように飛び回って世話をする。
オープニングクレジットはバスルームの天井から俯瞰で撮影、スローモーションで映し出される。アンダーソン監督が信奉者だと語るブライアン・デ・パルマ監督を想起させる手法だ。俯瞰での撮影は『アンタッチャブル』(12)でロバート・デ・ニーロが髭剃りをしてもらうオープニングシーン、スローモーションは『キャリー』(13)のオープニングで使用された更衣室のパンショットを思わせる。
デル・トロはオープニングクレジットの撮影を「奇天烈だった」と回想する。スローモーションで流されるシーンなのに、撮影では超高速で芝居してほしいとアンダーソン監督から指示があったのだ。「困惑しましたよ。『え? それじゃ本末転倒じゃないですか?スローモーションで見せたいなら、普通に撮ればいいのでは?』とウェスに聞いてみたけれど、『いやいや、違った仕上がりになるんだよ』と言うんです。だから受け入れて、やってみました」。
オープニングクレジットはワンテイクで撮影された。超高速での芝居をワンテイクで収めるのは容易ではない。デル・トロは30回くらい繰り返し撮影したと話す。「登場人物の多いシーンだったし、看護師も7人くらいいて、それぞれが別々の動きをしていました。ある人はセットの外をぐるっと回って、別の扉から再入場しなきゃいけなかったりして、とても複雑な構成だったんです。私たちはボトルを受け取り、栓を抜いて、戻して…という具合に、長回しでひたすら演じ続けました。途中で『待った、ページをめくるの忘れた!』と言いたくても、列車は止まってくれません。ウェス・アンダーソンの列車は走り出したらノンストップなんです」。
「長風呂ですっかりプルーンのようにふやけてしまった」と苦笑するデル・トロだが、仕上がりには満足しているようだ。「映像を観るとわかるけれど、ほかでは見られない独特の味わいがある。単なるスローモーションとは違う、唯一無二の質感があるんです。ダンスこそないけど、どこかミュージカルのような感覚。動きや映像の調和がとても美しいんです。長年映画をやっていると、もう全部分かった気になるし、あらゆる経験をしたと思い込むものだけど、このシーンを観た瞬間、“ワオ”と思った。ふだん自分の映画を観るのは本当に苦手なんだけど、観ているうちに、自分自身が高揚していくのを感じました」。
アンダーソン監督は本シーンのアイデアを音楽から広げていったと話す。「音楽については最初からイメージがあって、“このキャラクターにぴったりだ”と思える楽曲があった。脚本の段階では“ザ・ザは浴槽に入り、周囲の人々に世話をされている”とだけ書かれていたけれど、そこからイメージがどんどん膨らんでいきました」。
撮影中も音楽が重要な役割を果たしている。アンダーソン監督は音楽を流しながら撮影し、バレエの振り付けをしているような感覚で演出していたという。「振りつけのために音楽を流しながら撮影していたのだけど、それは普通のテンポ。ところが撮影は90fpsで行われているので、演者は実際より早く動かなきゃならない。つまり、耳で聴いている音楽のテンポと、自分が取るべき動きのテンポがズレていて、連動するわけではないんです。そのギャップがちょっとややこしかったね」。
インパクト大のオープニングシーンをはじめ、唯一無二のウェス・ワールドが繰り広げられる本作。ぜひ続報も楽しみにしていてほしい。
文/山崎伸子