ヘルボーイってそもそも何者?シリーズ解説から最新作『ザ・クルキッドマン』が“異色”なワケまで

ヘルボーイってそもそも何者?シリーズ解説から最新作『ザ・クルキッドマン』が“異色”なワケまで

独特のダークかつオカルティックな世界観と、特徴的なアートによって根強い人気を誇る異色のアメコミ「ヘルボーイ」。これまで3作の実写映画が制作されてきたが、スタッフ、キャストを一新し、「ヘルボーイ」の原作が持つ雰囲気をより重視した新たなテイストで描く最新作『ヘルボーイ/ザ・クルキッドマン』(以下、『ザ・クルキッドマン』)が7月4日(金)より公開となる。

時代は1958年、アメリカ・アパラチア山脈。超常現象調査防衛局“B.P.R.D.”の捜査官ヘルボーイ(ジャック・ケシー)と新人のジョー(アデライン・ルドルフ)は、アパラチアの山奥にある村を訪れる。そこでは村人たちが怯えながら暮らしており、「歪んだ男」と呼ばれる悪魔の仕業だと思われる奇怪な事件が相次いでいた。そんななか、20年前に悪魔と契約し、魂を奪われたと語る男トム・フェレル(ジェファーソン・ホワイト)が村へ戻ってきたことで、呪われた因縁が目を覚ます。

本作は、いままでの映画や原作をまったく知らずとも、単独の映画としてしっかりと楽しめる内容になっている。だが「ヘルボーイ」に関する基礎情報を知っておけば、作品の魅力を倍増して感じられるはず!そこで今回は、「そもそもヘルボーイってなに?」「実写化作品の特徴」「『ザ・クルキッドマン』の見どころ」の3つの視点から、ヘルボーイの魅力をひも解いていきたい。

武器は石でできた右腕と巨大な拳銃!悪魔の子・ヘルボーイはどうして人間界に来た?

1944年、ナチスドイツが怪僧ラスプーチンの提案を受け、魔界から強大な力をもたらす魔術の儀式「ラグナロク計画」を実行した結果、真っ赤な肌と尻尾、そしてツノを持つ悪魔の赤ん坊が魔界から召喚されることに。“地獄から来た子ども=ヘルボーイ”と名付けられ、怪事件の調査や魔物退治を担当するアメリカの極秘機関B.P.R.D.(超常現象調査局)の責任者、ブルッテンホルム教授に引き取られ愛情深く育てられる。

人間の血を引く悪魔であるヘルボーイ
人間の血を引く悪魔であるヘルボーイ[c]2024 HELLBOY PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.

こうしてヘルボーイは、荒っぽいが優しい心と正義感を持つような人物として成長。人間よりも早いスピードで大人になった彼は、石でできた右腕と巨大な拳銃、そして強靭な肉体と怪力を活かしB.P.R.D.のトップエージェントに。世界各地で発生する原因不明の奇怪な現象や謎の怪物による被害などを調査、解決をするために活躍するようになる…というのが基本設定となっている。

「ヘルボーイ」は、「アベンジャーズ」などで知られるマーベル、「バットマン」などのDCとは異なる、ダークホースという出版社が1994年にスタートさせた作品。マーベルやDCは登場するキャラクターの権利を会社が持ち、依頼によって絵を担当するアーティストと、物語を担当するライターが制作していくスタイルが基本となっている。一方の「ヘルボーイ」は、アーティストのマイク・ミニョーラが生みだし、シリーズの多くを自身が物語を担当することで、従来のアメコミとは異なる作家主導で描かれるシリーズとなっている。

魔界より召喚されたヘルボーイは、B.P.R.D.のエージェントとして活躍
魔界より召喚されたヘルボーイは、B.P.R.D.のエージェントとして活躍[c]2024 HELLBOY PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.

そして長編と短編の大きく2つの軸で物語が描かれるのも特徴だ。長編シリーズは、現世を破滅に導く力を持つ悪魔とされるヘルボーイの出生に絡み、彼自身が抱える謎や運命に大きく関わる物語となっている。オカルトや地域伝承を交えつつも、大河ロマン的な要素も含み、原作がスタートした1994年以降の「現代」を舞台に展開。一方の短編シリーズは、「過去」を舞台とした作品群となり、B.P.R.D.のエージェントとして世界各地の妖怪、妖精、怪物、魔術などオカルティックな事件を調査するエピソードが描かれている。

ゴシックホラーのようなビジュアルも魅力
ゴシックホラーのようなビジュアルも魅力[c]2024 HELLBOY PRODUCTIONS, INC. All Rights Reserved.

原作者のミニョーラは、幼少期からホラーやモンスター、超自然的なものや神秘的なものを好んでおり、そうした「不気味さ」や「闇」を強調するかのようにコントラストが強く影が多く、「ヘルボーイ」ではディテールを最小限にしてややデフォルメしたような画風が大きな注目を浴びることになった。そのデザイン的とも言えるレイアウトセンスやアーティスティックとも言える画風は、日本のクリエイターにも大きな影響を与えているのだ。

クリエイターの作家性が色濃く出る、「ヘルボーイ」の実写映画シリーズ

次にこれまで実写化されてきた映画作品を振り返っていこう。ロン・パールマンがヘルボーイを演じ、ギレルモ・デル・トロが監督を務めた『ヘルボーイ(2004)』。初実写化となった本作は、コミック第1巻である長編「ヘルボーイ 破滅の種子」を原作に、ヘルボーイの召喚から現代世界での生活やエージェントとしての活動する姿を、オカルト的な要素を扱いながらもクリーチャーへの愛情を感じられる、明るく優しい作風と派手なアクションを融合させる形で描かれた。

【写真を見る】ヘルボーイといえばやっぱりこの人!?いまもなお人気を誇るデル・トロ版のロン・パールマン
【写真を見る】ヘルボーイといえばやっぱりこの人!?いまもなお人気を誇るデル・トロ版のロン・パールマン[c]EVERETT/AFLO※写真は『ヘルボーイ(2004)』

デル・トロ監督とパールマンが続投した続編『ヘルボーイ ゴールデン・アーミー』(08)は、原作にはない「疲れを知らぬ無敵の軍隊=ゴールデン・アーミー」の復活を、ミニョーラの協力のもとに創出。前作の作風はそのままに、デル・トロ監督にアカデミー作品賞をもたらした『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)の原点とも言える、「異形の者の恋愛」という要素も盛り込まれている。

容赦ない描写の連続!デヴィッド・ハーパー版のヘルボーイ(写真は『ヘルボーイ』(19)の場面写真)
容赦ない描写の連続!デヴィッド・ハーパー版のヘルボーイ(写真は『ヘルボーイ』(19)の場面写真)[c]EVERETT/AFLO


実写映画3作目となる『ヘルボーイ』(19)は、監督に「ゲーム・オブ・スローンズ」など担当したニール・マーシャル、ヘルボーイ役に「ストレンジャー・シングス 未知の世界」やマーベル・シネマティック・ユニバースのレッド・ガーディアン役で知られるデヴィッド・ハーパー、ヴィランとなるブラッドクイーン役に「バイオハザード」シリーズのミラ・ジョヴォヴィッチを配し、設定も一新されたリブート作である。イングランドに伝わるアーサー王伝説や地域の魔女伝説をベースに、ヘルボーイの出生の秘密にも関わる長編シリーズ「ヘルボーイ 疾風怒濤」が原作となっている。ホラー映画出身のマーシャル監督らしい中世イングランドの暗部とつながるダークな雰囲気、容赦のないゴア描写が盛り込まれ、前2作とはまたひと味ちがうテイストの作品として仕上がっている。

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