「嫌なこと全部忘れられる」「人はいつまで挑戦できるのか」映画『F1(R)/エフワン』の超爽快感と内に秘められたメッセージを徹底レビュー
ブラッド・ピットというスターを堪能できる
そして、ブラッド・ピットの魅力についても言及せずにいられない。今年62歳になるとは思えない、少年のような笑顔と、相変わらずの色気、時折見せる哀愁…、何歳になっても挑戦の似合う男だ。『ファイト・クラブ』(99)の野性味ある危険な魅力、『オーシャンズ11』(01)のクールで都会的なセクシーさ、『Mr.&Mrs.スミス』(05)の情熱的で熱い存在感。出演作を並べてみても数がありすぎてこれまたキリがないが、彼が持つ“情熱的で危険でアツい存在感”が今回の映画1本で味わえたように思える。
ピット演じるソニーは、自らの行動で手本を示しながらチームメイトとの絆を強めていく。その自然な導きがチーム全体の結束を高め、感動的な盛り上がりへとつながっていく。F1がここまでチームスポーツであることを感じさせてくれたのも、この映画が初めてだったかもしれない。彼だからこそ表現できる、クールさ、渋さ、リーダーシップ、そして変わらぬ無邪気さ、そんなブラピの要素を全部あわせ持っている今回のソニーというキャラクター。心がかき乱されるような存在感に一生ついて行きたくなり、チームメイトの気持ちもわかるほどだった!
ちょっとした大人の恋愛要素もあり、かつてスクリーンのハリウッドスターに恋をした気持ちが私自身も再び蘇ってきた。スクリーンの似合う、これぞハリウッドスターだよなと、ブラピというスターを堪能できる時間でもあった。
誰もが当てはまる問いに、静かにアンサーをくれる
さらには、年齢を重ねてからの仕事の在り方や、いつまで働けるかについての問いが描かれた映画としても見どころは多い。F1のリアルなレース映像と、エモーショナルな人間ドラマを融合させた新感覚スポーツ映画であることは間違いないが、この映画がただの娯楽映画ではないところについて話したい。
「人はいつまで挑戦できるのか」、「年齢を重ねた先になにがあるのか」といった、誰しもが抱える問いを提示する。そしてその問いに、猛スピードの反対側で静かにアンサーをくれる。人生は自分との戦いであること、年齢でも体裁でもプライドでもなく“自分がどう在りたいか”を突き詰めた先に本当の自由と解放があることを教えてくれた。ソニーが老いを受け入れながらも走り続ける姿はあまりにもかっこよかったし、不安や恐怖や葛藤と正面から向き合う、それでもなお希望を信じ進みだす姿は観客自身にも響くだろう。想像以上に内省的な時間となり、感慨深い。
最後に、試写直後のメモに私はひと言、こう書いていた。「嫌なこと全部忘れられる」と。映画を生業にする私がこんなにシンプルな感想でいいのかと思ったけれど、いま改めて振り返り、それで間違いないと感じている。まさにこの映画がもたらす爽快感は、現実の重さや憂鬱を一瞬で吹き飛ばしてくれる。映画館で観ること自体が“逃避行”のような体験。
日常を忘れてスピードと興奮に身を委ねたい時、こんな満足感に包まれる最高の映画体験を堪能してほしい!
文/東紗友美(映画ソムリエ)、編集/サンクレイオ翼