『罪人たち』完全ネタバレ徹底解析!数々の深淵な謎が込められた、全米大ヒットの異色ホラー映画を読み解く

『罪人たち』完全ネタバレ徹底解析!数々の深淵な謎が込められた、全米大ヒットの異色ホラー映画を読み解く

北米で2週連続1位、2億7500万ドルの興行収入を上げる大ヒットを記録し、世界興収もすでに3億6000万ドルを超え、批評家から大絶賛されている『罪人たち』(公開中)。ライアン・クーグラー監督が三度マイケル・B・ジョーダンとタッグを組んだ、初のオリジナル映画だ。

 マイケル・B・ジョーダンが一人二役で双子の兄弟、スモーク&スタックを演じる
マイケル・B・ジョーダンが一人二役で双子の兄弟、スモーク&スタックを演じる[c]2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX[R] is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema[R] is a registered trademark of Dolby Laboratories

物語の舞台は1930年代、アメリカ南部の田舎町。故郷に戻ってきた双子の兄弟スモークとスタック(マイケル・B・ジョーダン)は、暗黒街で稼いだ大金で白人の地主から製材所を買い上げ、黒人コミュニティのために酒とブルースをふるまうダンスホールの開業を計画する。双子の従兄弟でギタリスト志望のサミー(マイルズ・ケイトン)、酒浸りのブルースマン、デルタ・スリム(デルロイ・リンドー)、スモークの元パートナーのアニー(ウンミ・モサク)、畑の小作人コーンブレッド(オマー・ミラー)、地元商店の中国人夫婦らを仲間に引き込み、なんとかオープン初日の夜を迎えるが、サミーが奏でる音色に導かれるようにして、ある招かれざる者たちが現れる…。

本作は、1860年代にアメリカ深南部のアフリカン・アメリカンの間で誕生し、「悪魔の音楽」とも呼ばれたブルースが放つマジカルな神秘性を題材にしたディープな音楽映画でありながら、KKKが暗躍するジム・クロウ法(注:1876年から1964年にかけてアメリカ合衆国南部で存在した、黒人の一般公共施設の利用を禁止・制限した人種差別的な法律制度のこと)時代を背景にしたスペクタクルなヴァンパイア・アクション映画でもあるという、壮大でユニークなマスターピースだ。海外では早速、アカデミー賞候補という声も上がっているが、このネタバレ解析を参考に、数々の深淵な謎が込められた重層的な本作を読み解いてみてほしい。

※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。

クラークスデイル(Clarksdale)

1930年代のミシシッピ州クラークスデイル近郊で綿花摘みをするアフリカ系アメリカ人の日雇い労働者たち(マリオン・ポスト・ウォルコット撮影)
1930年代のミシシッピ州クラークスデイル近郊で綿花摘みをするアフリカ系アメリカ人の日雇い労働者たち(マリオン・ポスト・ウォルコット撮影)[c]Everett Collection/AFLO

映画の舞台はアメリカ南部、ミシシッピ州のミシシッピ・デルタの一角、クラークスデイルだ。この街はソウル界のレジェンド、サム・クックや、ブルース界のレジェンド、ジョン・リー・フッカーの生誕地であり、同じくブルースのレジェンドで現代シカゴ・ブルースの父、マディ・ウォーターズもこの近くの街で育った。『罪人たち』は主にルイジアナ州で撮影されたが、クーグラーは脚本のリサーチのためにクラークスデイルを訪れたという。人口約14000人(そのほとんどが黒人)のこの街には映画館がなく、地元住人たちは『罪人たち』を観る機会がなかったが、コミュニティのリクエストを受け、5月29日にプレミア上映会が開催。クーグラーと妻でプロデューサーのジンジ・クーグラー、作曲家ルドウィグ・ゴランソンらが出席した。

クーグラーの親族からインスパイア

 【写真を見る】完全オリジナル映画としては過去10年で米国内最大のオープニング成績を記録した『罪人たち』
【写真を見る】完全オリジナル映画としては過去10年で米国内最大のオープニング成績を記録した『罪人たち』[c]2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX[R] is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema[R] is a registered trademark of Dolby Laboratories

『罪人たち』の始まりは、クーグラーと叔父との関係だった。映画にインスピレーションを与えたクーグラーの叔父、ジェームズも映画の舞台と同じアメリカ南部ミシシッピ生まれ。クーグラーは、幼い頃にジェームズとよく一緒に過ごしたそうで、この叔父はブルースが大好きで(音楽はブルースしか聴かなかった)、映画は観なかったが、ラジオでサンフランシスコ・ジャイアンツの試合を聞き、レコードでブルースを聴く、テイラー・ウイスキーが好きな人物だったという。ジェームズは『クリード チャンプを継ぐ男』(15)の撮影中に、この世を去ったという。そういう意味でも、『罪人たち』はクーグラーにとって最もパーソナルな作品なのだ。

ロバート・ジョンソン、悪魔に魂を売った男

十字路で悪魔と取引したというロバート・ジョンソンの逸話をモチーフにした、ウォルター・ヒル監督作『クロスロード』(86)
十字路で悪魔と取引したというロバート・ジョンソンの逸話をモチーフにした、ウォルター・ヒル監督作『クロスロード』(86)[c]Everett Collection/AFLO

ミシシッピ出身のブルース界のレジェンド、ロバート・ジョンソンは、エリック・クラプトンやキース・リチャーズ、ジミー・ペイジにも影響を与えた20世紀を代表するミュージシャンの一人。彼が「悪魔に魂を売って超人的な歌唱力とギターテクニックを手に入れた」という言い伝えが有名だが、悪魔と取引をしたクロスロード(十字路)があるのが、前述のクラークスデイルだ。彼の鬼気迫る壮絶なプレイは、1936年と37年の2回のレコーディングで録音された「クロスロード」や「スウィート・ホーム・シカゴ」といった代表的な楽曲で確認することができる。ジョンソンは1938年に27歳の若さで亡くなった。女癖の悪いジョンソンが手を出した女性の嫉妬深い夫がウイスキーに毒を混入し、それを飲んで死んだという説もあるが、真相はわかっていない。

アル・カポネ

禁酒法時代のシカゴの街を牛耳っていたアル・カポネ。最も有名なギャングとして知られ、彼をモデルにした映画も数多く作られている
禁酒法時代のシカゴの街を牛耳っていたアル・カポネ。最も有名なギャングとして知られ、彼をモデルにした映画も数多く作られている[c]Everett Collection/AFLO

映画の冒頭で、スモークに遭遇した男が「シカゴでアル・カポネのために働いてたんじゃなかったのか?」と驚くシーンがある。スモークとスタックの双子の兄弟は、シカゴのイタリア系アメリカ人のマフィア組織「シカゴ・アウトフィット」で働いていたが、地元ミシシッピに戻ってきたという設定だ。シカゴ・アウトフィットは実在するマフィアで、1925年から32年に逮捕されるまで、アル・カポネがボスだった。双子がアル・カポネに仕えていた時代のプリクエル(前日譚)が製作されるのでは?という噂があるが、果たして?

革新的な音楽モンタージュ・シーン

 サミーのギター・プレイにより、現在・過去・未来のブラック・ミュージックが交わるシーンは本作の白眉だ
サミーのギター・プレイにより、現在・過去・未来のブラック・ミュージックが交わるシーンは本作の白眉だ[c]2025 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved. IMAX[R] is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema[R] is a registered trademark of Dolby Laboratories

『罪人たち』のハイライトといえば、映画前半に登場する、現在・過去・未来のブラック・ミュージックが時空を超えて一つの場所で交わる、シュールでマジカルなモンタージュ・シークエンスだろう。若きブルースマン、サミーが「I Lied to You」をプレイし始めると、アフリカの民族音楽やヒップホップ、ロック、そしてゴスペルまで、黒人ミュージシャンたちのスピリット(霊的存在)が出現し、同時にプレイを見せるというスペクタクルに満ちた驚異の映像体験に心が震える。いかにミシシッピ・ブルースが音楽史において重要であるか、いくつもの世代やカルチャーにどれほど大きな波及効果をもたらしたのか、さらにブラック・ミュージックの不死性、不滅性を体現している名シーンだ。撮影監督のオータム・デュラルドによると、このシーンは数か月かけて準備をし、約36kgのIMAXカメラで1日で撮影されたという。

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