『メガロポリス』に見るフランシス・フォード・コッポラ監督の強い信念をひも解く!映像哲学と社会に対する理想、過去作とのつながりも

コラム

『メガロポリス』に見るフランシス・フォード・コッポラ監督の強い信念をひも解く!映像哲学と社会に対する理想、過去作とのつながりも

第45回アカデミー賞で作品賞に輝いた『ゴッドファーザー』(72)、第32回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝いた『地獄の黙示録』(79)などの名作を生みだしてきたフランシス・フォード・コッポラ監督。今年で86歳を迎えた彼が、構想40年、私財を投げ売って製作したことで話題となった作品が、最新作『メガロポリス』(6月20日公開)である。

コッポラ自らが莫大な製作費を捻出した壮大な自主映画

監督作としては『Virginia ヴァージニア』(11)以来、13年ぶり。2000年代以降は寡作となり、『ドラキュラ』(92)や『レインメーカー』(97)のようなハリウッドメジャーによる配給からは距離を置き、『コッポラの胡蝶の夢』(07)や『テトロ 過去を殺した男』(09)など小規模な作品を監督していた。そのため、先述の『ゴッドファーザー』や『地獄の黙示録』などをリアルタイムで体験してきていない世代にとっては、“昔の監督”という印象があるとの声も耳にする。

強大な勢力を誇るイタリア系のマフィア一家の栄枯盛衰を描いた『ゴッドファーザー』
強大な勢力を誇るイタリア系のマフィア一家の栄枯盛衰を描いた『ゴッドファーザー』[c]Everett Collection/AFLO

そういう意味で『メガロポリス』は、1億2,000万ドル(約186億円)もの製作費を費やした久しぶりの超大作。しかも、かつてコッポラが設立した製作会社アメリカン・ゾエトロープによる“壮大なる自主映画”のごとき制作体制でありながら、ハリウッドメジャー並みの予算を組んでいることに驚かされるのだ。

今作には幾度と重なった企画の頓挫や資金調達の問題があった。例えば、2001年にはロバート・デ・ニーロやポール・ニューマン、レオナルド・ディカプリオ、ラッセル・クロウなどが台本の読み合わせに参加するところまで製作が進んでいたが、アメリカ同時多発テロの影響で頓挫したという経緯がある。

それらの事情を乗り越えるため、最終的には、自身が所有する巨大なワイナリーの一部を売却して資金を捻出。往年のファンであれば、コッポラがカリフォルニア州のソノマ・カウンティにワイナリーを立ち上げ、伝説のワイナリー「イングルヌック」の復活に携わって、アメリカを代表するワイナリーにまで育て上げた逸話を思い出すだろう。誰に望まれるわけでもなかった『メガロポリス』という企画は、コッポラの「自分が作りたい映画を作る」という強い信念によって製作された映画であることを窺わせる。


『メガロポリス』に“世界は変えられる”という泥臭いまでの理想を詰め込んだフランシス・フォード・コッポラ
『メガロポリス』に“世界は変えられる”という泥臭いまでの理想を詰め込んだフランシス・フォード・コッポラ[c]Everett Collection/AFLO

巨匠たちに愛されるアダム・ドライバーが今回も救世主に

物語は、格差社会の顕在化が社会問題となっている21世紀のアメリカ共和国の大都市、ニューローマが舞台。災害に見舞われた街を、すべての人が平等で幸せに暮らせる理想郷として復活させようと試みる天才建築家、カエサル・カティリナの姿を描いている。アメリカという超大国をローマ帝国に見立てながら、現代の格差社会と独裁的な政治傾向を容認する社会を、コッポラが40年以上前に予見していた点は非常に興味深い。

巨匠フランシス・フォード・コッポラが私財を投げ売ってでも完成させたかった映画『メガロポリス』をひも解く!
巨匠フランシス・フォード・コッポラが私財を投げ売ってでも完成させたかった映画『メガロポリス』をひも解く![c]2024 CAESAR FILM LLCALL RIGHTS RESERVED

建築家のカエサルを演じるのはアダム・ドライバー。説明するまでもなく、彼には“巨匠たちに愛される俳優”という印象がある。例えば、『沈黙-サイレンス-』(16)ではマーティン・スコセッシ、『パターソン』(16)ではジム・ジャームッシュ、『ブラック・クランズマン』(18)ではスパイク・リー、『ハウス・オブ・グッチ』(21)ではリドリー・スコットと組み、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(15)以降のシリーズではカイロ・レン役を演じて知名度を一気に高めた。また彼は、テリー・ギリアム監督の『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(18)やレオス・カラックス監督の『アネット』(21)、マイケル・マン監督の『フェラーリ』(23)など頓挫しかけた企画の救世主的存在でもある。つまり、難産であった『メガロポリス』という企画にとっても、ドライバーは救世主的な存在になっているというわけなのだ。

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