映画のプロたちが『リライト』をネタバレギリギリ解説!お約束の刷新、役者陣のアンサンブル、“沼”なキャラ…あふれる魅力とは?
『君が君で君だ』(18)や『ちょっと思い出しただけ』(22)など、人々の青春を様々な形で描いてきた松居大悟と、『サマータイムマシン・ブルース』(05)、『リバー、流れないでよ』(23)と、“時間もの”ムービーで高い評価を得るヨーロッパ企画の上田誠が初タッグを組み、法条遥の同名小説を実写映画化した『リライト』(公開中)。
“SF史上最悪のパラドックス”とも評されるほど緻密に入り組んだシナリオが見どころの本作。そこで本稿では、ネタバレギリギリ…“劇場で観る楽しみが失われない範囲“でのクロスレビューをお届け!「青春タイムリープ映画の“お約束の刷新”と超独自展開」「スタッフによる巧みな設計と役者陣のアンサンブル」「複雑な物語にさらに深みを与えるキャラクター」という3つの視点で、映画のプロをも唸らせた本作の魅力をひも解いていきたい。
高校3年生の美雪(池田エライザ)は、ある小説を読んで300年後からこの時代にタイムリープしてきた青年、保彦(阿達慶)と出会う。保彦の“タイムリープ”という秘密を共有した2人は恋に落ち、放課後に一緒に出かけたり夏祭りで並んで花火を見たり、日に日に仲を深めていく。そんなある日、10年後にタイムリープすることになった美雪は、そこで未来の自分からある本を見せられ「あなたが書く小説。…絶対書ける」と告げられる。10年後、無事出版へとこぎつけた1冊の小説を手に10年前と同じ場所で過去の自分との再会を待つが、いくら待ってもあの日の自分は現れない。疑問に思った美雪が当時の同級生と再会するなかで、このタイムリープに隠された秘密が明かされていく。
先入観すべてが壮大な“前フリ”!予定調和じゃないタイムリープ(物書き・SYO)
厄介な時代だ。玉石混交のコンテンツが同時多発的にあふれて可処分時間の奪い合いになり、確実に「おもしろい」と思えなければユーザーに選ばれない。そのため各映画においては宣伝などで事前にどこまで「見せ」てどこまで「隠す」かがシビアに問われる。そんななか、『リライト』はなかなかの野心作といえるだろう。公開前の現時点で開示されている物語は、「300年後からやってきた未来人と恋に落ちた女子高生が、タイムリープを完遂させるために小説を書く」というもの。少々意地悪な言い方をすれば、どこか既視感が拭えない。予告映像などを観ても「“時かけ”じゃん!」と思う人は少なくないだろう。
本作はわざわざ大林宣彦監督の名作『時をかける少女』(83)と同じ広島県尾道市でロケを行い、学生服のデザイン含めて意図的に寄せている(ラベンダーの香りまで登場し、大林監督作『転校生』(82)の主演、尾美としのり、『ふたり』(91)のヒロイン、石田ひかりも出演)。実際の本編でも、序盤から転校生の登場、防波堤での散歩、夏祭りに浴衣、花火に風鈴と『時かけ』から『君の名は。』(16)まで連綿と受け継がれてきた「田舎×SF×青春」の王道が詰め込まれている。ノスタルジーに浸るにはぴったりだが、そこに“新しさ”はあるのか――?と疑問を抱くのは無理からぬこと。だが…それこそが本作の術中。
主人公の美雪は未来人の保彦との約束を果たすため苦労して小説家になり、10年かけて2人の思い出をつづった小説の出版にこぎつける。そして運命の日が訪れるが、10年前の美雪は現れない。困惑する美雪と共に我々観客も「あれ?なんで?」となるのがだいたい25分を経過したあたり。そこで本作のタイトルが表示される。そう、ここからが本当の始まりであり、本作はお約束展開に見せかけてこのポイントを境に超独自展開へと大きく分岐する。いわば、青春タイムリープ映画の定説を破壊する一作になっているのだ。つまり、これまでに我々が抱いていた先入観すべてが壮大な“前フリ”だったということ。「やられた!」と心地よい衝撃を受けつつ「この先はどうなるの?」続きが気になって仕方なくなることだろう。
勘のいい映画ファンにおいては、クリエイター陣の顔ぶれを見て「なにかある」と予期していた方もいるかもしれない。監督の松居大悟は『ちょっと思い出しただけ』や『不死身ラヴァーズ』(24)、さらに『アイスと雨音』(18)、『くれなずめ』(21)、脚本の上田誠(ヨーロッパ企画)は『サマータイムマシン・ブルース』、「四畳半神話大系」、『リバー、流れないでよ』と、共に“時間”をギミックにした作劇の名手。この2人が組めば、予定調和なタイムリープもので終わるはずがないのだ。
いよいよ“正体”を明かした本作は残り約100分をかけて、文字通り我々の印象を刷新していく。過去の自分が現れない原因を調査し始めた美雪のもとに、不可解な出来事が生じ始めるのだ。他出版社から「美雪の次回作がこちらで刊行予定の小説に酷似している」というクレームが届いたり、同窓会に集った同級生にライターや記者などやたら文筆業に就いた者が多かったり、同窓会の主宰が「新幹線代を渡すからどうか来てほしい」と異常に必死だったり――。違和感をおぼえる描写が立て続き、やがて真相が明かされる。
なんと保彦の“ひと夏の恋人”は美雪だけではなかった?!ここで「二股か?」と思ったアナタはまだ甘い。真実がひも解かれていくにしたがって「そういうこと!?」が連続し、物語や登場人物に対する印象が目まぐるしく“リライト”されていくのだ。松居監督の持ち味である一生懸命だがカッコ悪く、微笑ましい人物描写と、上田の持ち味であるオフビートな笑いを含んだセリフ回しが融合し、序盤ではほぼ登場しなかったある有名女優が“裏主人公”として躍動。ツイストを繰り返しながらも、最後の最後には『ちょっと思い出しただけ』や新作『ミーツ・ザ・ワールド』(10月24日公開)にも通じるしっとりしたビターなハッピーエンドで締め、余韻を残す松居監督の手腕も絶妙。観客心理を逆手に取った飛び道具的な裏切り系映画では終わらず、地に足のついた豊かな強度のある作品として、拡がっていくことだろう。