「病気のディテールよりも家族の話に」小泉徳宏監督が振り返る、寺尾聰&松坂桃李が主演する『父と僕の終わらない歌』の舞台裏
寺尾聰と松坂桃李が主演を務め、2016年にイギリスで生まれた奇跡の実話を、日本を舞台に置き換えた『父と僕の終わらない歌』(公開中)。このたび本作の撮影現場を切り取った貴重なメイキングカットと、メガホンをとった小泉徳宏監督の演出のこだわりがわかるコメントを独占入手した。
かつてレコードデビューを夢見たものの、息子の雄太のためにその夢を諦めた哲太。横須賀で楽器店を営みながら、時折地元のステージで歌声を披露しては喝采を浴びてきたユーモアたっぷりで人気者の哲太だったが、ある日アルツハイマー型認知症と診断されてしまう。すべてを忘れゆく彼をつなぎ止めたのは、息子と妻、仲間、そして音楽だった。
原案となったイギリスのノンフィクション「The Songaminute Man」に魅せられた渡久地翔プロデューサーから企画を聞かされ、大胆な企画だと感じながらも自身初となるノンフィクション作品に挑戦することを決めた小泉監督。日本に舞台を置き換えるにあたって、登場人物の距離感や音楽のジャンル、舞台となる都市など様々な選択肢から物語を再構築。日本映画では珍しい“ライターズ・ルーム方式”のスタイルで脚本開発を進めていったのだとか。
そうして完成した、説得力があり、豊かでメリハリのついた脚本。それに加え、本作に欠かせなかったのはキャスト陣がつむぎだす空気感だったという。物語の核となる“間宮家”を演じるのは、哲太役の寺尾、雄太役の松坂、そして律子役の松坂慶子の実力派3名。「3人に気持ちよくお芝居をしていただくこと、よほど物語に影響しない限りは口出しをしないという演出を心掛けました」と、小泉監督は彼らに揺るぎない信頼を寄せていたことを明かしている。
また、数多くの作品で題材になってきたアルツハイマー型認知症という病気については「この映画に関しては、病気のディテールよりも、それを受けた家族の話にしたかった」と明かし、「どう向き合い、乗り越えていって、あるいは乗り越えられないのか。そういったところに重きを置きたかったので、診断を受けた後の家族の会話が、映画の雰囲気や世界観を決定づけるだろうと思っていました」。
小泉監督がそう語るのは、律子が「逆に診断がついてホッとしたわ!」と朗らかに発するシーンのこと。「そのひと言と、それを受けた周囲の温かい反応が、この映画を決定づけたと思っています。そこだけは、“こうでなければ”という思いがあった。かといって、“こうしてください”と言ったわけではなく、自然にそうなる。そうした“阿吽の呼吸”がすごく気持ちよかったです」と振り返った。
『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(13)や「ちはやふる」シリーズなどの良質なエンタテインメント作品を世に送りだしてきた小泉監督が、「キャリア前半の集大成」と自信をもって送りだす本作。是非とも劇場で、音楽に彩られた父と息子の感動の物語をじっくりと堪能してほしい。
文/久保田 和馬