空前の“スティッチブーム”を起こした人気者!原点となるアニメーション映画から実写映画『リロ&スティッチ』までの23年を振り返る
“初めてのスティッチ”にもピッタリな実写『リロ&スティッチ』
今回の完全実写映画化は、アニメーション版のファンはもちろん、初めて『リロ&スティッチ』の物語に触れる人にとっても、改めてスティッチの魅力を堪能できる絶好の機会。最新のデジタル技術とパペットの匠の技術を融合させて生まれた実写版スティッチは、おなじみのビジュアルはそのままに、ふわふわモフモフとした毛並みや大きな瞳の潤みなど、本当に実在していると思えるほどリアルな質感で表現されている。
本作でリロ役を射止めたケアロハは、ハワイ島で生まれ育ち、フラダンスやサーフィンが大好きという、まさにリロのイメージにぴったりの女の子。本格的な演技経験は初めてながら、天真爛漫で繊細なリロのキャラクターを見事に体現した。姉のナニ役を演じたアグトンや、隣の家に住む優しい青年デイヴィッド役のデュドイトもまたハワイにルーツを持つキャストであり、物語の世界観にリアリティを与えている。
アニメーション版では、地球に潜伏する際、帽子やウィッグなどの小道具を使って変装するだけだったエイリアン、ジャンバ博士とプリークリー諜報員が、本作では特定の人間を完全にコピーして、人間の姿に擬態することも注目ポイント。コメディアンとしても人気のザック・ガリフィアナキス、ビリー・マグヌッセンが、それぞれジャンバ博士とプリークリーに扮し、コミカルな演技で笑わせてくれる。CIAエージェントのコブラ・バブルスを演じた、トニー賞に輝く名優コートニー・B・ヴァンスの圧倒的な存在感もさすがだ。
アニメーション版でスティッチの独特な声を演じたのは、『リロ&スティッチ』の生みの親であるクリス・サンダース監督。その後のシリーズ作品すべてでスティッチの声を担当してきた彼が、今回の実写版でもスティッチ役を続投。と同時に、日本語吹替版もアニメーション版に引き続き、山寺宏一がスティッチを演じるほか、プリークリー役を三ツ矢雄二が再演するなど、アニメーション版のファンも喜ばせるキャスティングになっている。
アニメーション版のストーリーにリスペクトを払いながら、実写版ならではの新たな魅力も盛りだくさん。実写版オリジナルのキャラクターとして、リロとナニのことを身内のように気にかけてくれるデイヴィッドの祖母トゥトゥや、姉妹の未来を案じる社会福祉局の職員ケコアが登場し、血縁に限らない人と人との温かいつながりを感じさせる。
それでも、本作全体を通してなにより強く心に残るのは、両親に先立たれたあと、残された子ども同士で必死に生きようとするナニとリロ姉妹の家族の絆だろう。もともと『リロ&スティッチ』は観る者の共感を呼ぶヒューマンドラマという点で、むしろ実写向きの題材だったといえる。特に本作ではリロだけでなく、姉ナニのキャラクター背景をより深く現実的に描いているのが印象的だ。リロの法的保護者でありながら、実際は高校を卒業したばかりの18歳。大学から奨学金を得られるほどの成績優秀者で、海洋学者になるのが夢だったが、リロの世話をするために進学を諦め、働くことを選んだという設定が加わった。
家族はお互いしかいないのに、このままでは離ればなれになってしまうかもしれない。追い詰められた姉妹のもとにやってきたのが、家族や愛の意味も知らないやんちゃなエイリアン、スティッチである。三者三様の繊細な感情の動き、心の成長が今回の実写版の見どころだ。名シーンが多いなかでも、水に沈むというスティッチの性質を最大限に生かしたドラマチックなクライマックスシーンは、実写ならではの臨場感にあふれ、大きな感動が込み上げる。
楽しくて優しい「スティッチ」の物語に触れよう
家族、友情、人との絆、愛、夢、自分が自分らしくいられる居場所の大切さ…長年にわたって、世界中で愛され続けてきた『リロ&スティッチ』が伝える数々のメッセージは、現代を生きる人たちにこそ響くものがある。これまでのファンも新しい観客も納得の実写版で、スティッチの楽しくて優しい世界観を存分に味わってほしい。
文/石塚圭子