空前の“スティッチブーム”を起こした人気者!原点となるアニメーション映画から実写映画『リロ&スティッチ』までの23年を振り返る
大きな瞳と耳を持つ、青くて小さい、暴れん坊のエイリアン。2002年に長編ディズニー・アニメーション『リロ&スティッチ(2002)』が劇場公開されて以来、新たなファンを増やし続けている大人気キャラクター、スティッチ。初登場から20年を超える時を経たいま、スティッチブームの原点ともいえる名作が実写映画となってスクリーンに戻ってきた!
実写版『リロ&スティッチ』(公開中)の監督を務めたのは、実写とアニメーションを組み合わせた映画『マルセル 靴をはいた小さな貝』(21)で一気に世界中の注目を集めた新世代クリエイター、ディーン・フライシャー・キャンプ。両親を事故で亡くした少女リロ役には、ハワイで生まれ育ったマイア・ケアロハ。リロのことを誰よりも大切に思う歳の離れた姉ナニ役に、同じくハワイ出身のシドニー・アグドンが抜擢された。
広大な自然が美しいハワイを舞台に、2人で肩を寄せ合って暮らす孤独な姉妹と、突然、彼女たちの前に現れた不思議なエイリアン、スティッチとの奇跡の出会いと家族(=オハナ)の絆を描く本作のストーリーは、オリジナルのアニメーション版に忠実。といっても、アニメーション版の公開からは、すでに23年もの歳月が経っている。
加えてスティッチは、キャラクターグッズが多数発売され、ファンシーショップの看板商品になるなど、“キャラクターそのもの”が大ブームを巻き起こした異例の存在。キャラ人気が先行したことで、「スティッチは好きだけれど、映画自体は観ていない」という人も案外多いのではないだろうか?そこで本コラムでは、スティッチをはじめとする主要キャラクターや作品群、実写映画『リロ&スティッチ』の魅力を紹介していきたい。
姉と2人で暮らす少女が、不思議な生き物“スティッチ”と出会う
ハワイのカウアイ島で暮らす6歳の少女リロは、両親を事故で失い、18歳の姉ナニと2人暮らし。リロは想像力が豊かすぎるせいで周囲から変わり者扱いされ、いつも1人ぼっちだ。姉のナニは、そんなリロの母親代わりを務めようと奮闘するも、失敗ばかりで日々の生活もままならない。ついには社会福祉局の担当職員から、リロを児童施設に入れることを勧められてしまう。
ある日、動物保護施設に遊びに来たリロは、不思議な生き物を発見する。この生き物こそ、地球から遠く離れた場所で、悪の天才科学者ジャンバ博士(ザック・ガリフィアナキス)が違法な遺伝子操作で生みだした破壊生物“試作品626号”だった。どんな攻撃にも耐える強靭な身体とスーパーコンピューター並みの知能を持つ626号は、銀河連邦議長の監視を抜けだして脱走し、地球のハワイに落下。追っ手から身を守るため、犬のふりをしてリロに近づき、彼女から「スティッチ」と名付けられる。
リロのペットとして受け入れたものの、あらゆるものを破壊し、次々とトラブルを起こすスティッチに翻弄されるナニは、隣の家に住むサーフィン仲間の青年デイヴィッド(カイポ・デュドイト)の好意に気づく余裕もない。それでも、スティッチとリロの間には、いつしか“家族(オハナ)”の深い絆が芽生え始めていた。そこへスティッチを追って地球にやって来たジャンバ博士と、博士の監視役に任命された、地球の文化を愛する銀河連邦諜報員プリークリー(ビリー・マグヌッセン)がスティッチ捕獲のために動きだす――。
ごく普通の女の子を主人公にした“新しさ”
ストーリーからもわかるように、『リロ&スティッチ』が数多くのディズニー作品のなかでも特別な理由の一つは、原作のない完全オリジナルの物語である点。古典や伝説をベースにした作品が多かった当時のディズニー映画のなかではめずらしく、舞台は現代のハワイで、ナニとリロの姉妹はごく普通の一般市民だ。彼女たちと出会うスティッチが、いわゆる小動物の愛くるしさとはひと味違う、どこかエイリアンらしい奇妙さを感じさせる“キモかわ”なビジュアルだったことも新鮮だった。
実はアニメーション版が公開された2002年当時は、長いディズニーの歴史のなかで、様々な要因により興行収入が低迷した不遇の時代。そんな時、『美女と野獣』(91)や『アラジン』(92)の原案を手掛けたクリス・サンダースが、同じくディズニー作品に携わってきたディーン・デュボアと共に原案、脚本、監督を務めた42作目の長編ディズニー・アニメーション『リロ&スティッチ』が世界中でヒット。さらに公開から少し経ったあと、10~20代の間で、スティッチをモチーフにしたグッズが大流行し、スティッチのグッズをバッグにつけた女子高生が街にあふれるほどの社会現象となった。
この大ブレイクを受け、多くの続編映画やテレビシリーズが制作され、ついには沖縄を舞台にした日本オリジナルのアニメシリーズも放送。スティッチだけでなく、リロの手作りの人形スクランプや、続編シリーズに登場するスティッチの仲間のエイリアン、エンジェルやルーベンといった新たなキャラクターたちも次々にグッズ化され、絶大な人気を集めた。
また、東京ディズニーランドでは、2006年と07年に2年連続でスティッチを主役とした単独イベントを開催。そして08年に「魅惑のチキルーム:スティッチ・プレゼンツ“アロハ・エ・コモ・マイ”」、15年には「スティッチ・エンカウンター」といったアトラクションがオープンするなど、スティッチはスクリーンを飛びだして縦横無尽に大活躍。あらゆる面において、暗黒期のディズニーを支えた救世主ともいえるスティッチは、まさしく現代のディズニーを代表するキャラクターになったのである。
キャラクター人気が爆発し、続編が次々と製作
2002年のアニメーション版『リロ&スティッチ』の公開後も、DVD作品やテレビシリーズが次々と生まれ、その世界をどんどん広げていったスティッチ作品。まず押さえたいのは、映画『リロ&スティッチ』に直接つながる物語として、さらに関係が深まったリロとスティッチのその後の暮らしを描いた長編アニメーション『リロ&スティッチ2』(05)。
そして、626番目の試作品だったスティッチに“イトコたち”(ほかの試作品)が存在することが明らかになり、ユニークな能力を持つ、たくさんのエイリアンが登場する長編アニメーション『スティッチ!ザ・ムービー』と、その続編で初のテレビシリーズ「リロ アンド スティッチ ザ・シリーズ」、リロとスティッチの物語を締めくくる実質的な完結編となる長編アニメーション『リロイ&スティッチ』(06)がある。
それまでのハワイの物語が完結したあとは、日本のファンのために、舞台を沖縄に移して作られた日本オリジナルのテレビシリーズ「スティッチ!」が2008~11年にかけ放送された。沖縄の架空の島イザヨイ島に不時着したスティッチが、少女ユウナという新しい家族(オハナ)と出会い、友情を育んでいく展開は、リロたちとの物語とはまったく別物に見えながら、時系列がつながっているのがポイントだ。