アーティストから俳優へ。『Page30』で演技初挑戦のMAAKIIIにインタビュー「孤独や痛みを役に乗せられるのは最高の喜び」
エグゼクティブプロデューサーの中村正人(DREAMS COME TRUE) と共に、『20世紀少年』三部作(08~09)、『夏目アラタの結婚』(24)などの堤幸彦監督が、自らの原案がベースのオリジナル脚本を映画化した『Page30』(公開中)。ロックバンド「HIGH and MIGHTY COLOR」時代に日本レコード大賞新人賞に輝き、2013年からソロでアーティスト活動を続けているMAAKIIIは、本作で俳優業を本格的にスタートさせ、「コロナ禍の日々を過ごしていた時に私の中で“演技を学びたい”という気持ちがすごく高まったんです」と振り返る。「そんな時に運命の悪戯か、エグゼクティブプロデューサーの中村さんと堤監督が立ち上げた企画にお誘い頂いて(笑)。その段階ではまだ『役者の生き様そのものを描くみたいな作品を撮りたいな』という堤監督の漠然としたアイデアだったんですけど、それが4人の女優が円形劇場に集められるいまの形になったんです」。
稽古場に集められた4人の女優。二流の役者、売れない役者、言われるまま演じるだけでは心が満たされなくなった役者、演技経験がほとんどない素人同然の役者…そんな彼女たちが30ページの台本と3日間向き合い、4日目の舞台公演本番を目指す。配役は未定で、演出家もいない。スマホや時計を預け、円形劇場という閉ざされた環境に身を置くことになった4人は、自分のやりたい役をつかむために稽古に全力で打ち込んでいく。
「セリフを覚えるため、台本を身体に縛りつけて生活した」
最初は誰がどの役を演じるのか決まっていなかったため、劇中劇の30ページの台本も含む膨大なシナリオをすべて覚える必要があった。しかも、共演するほかの3人の俳優はNetflix「極悪女王」(24)などの唐田えりか、舞台経験豊富な林田麻里と自らプロデュースも手掛ける広山詞葉。彼女たちを相手に芝居をするのはかなりハードルの高いことだが、MAAKIIIは「不安を感じたら潰れちゃうと思ったので、最初から『やった~!』というノリノリの気分で臨みました」という。「それに、私が演じた樹利亜はミュージシャン上がりで演技経験がほとんどないという自分とシンクロするキャラだったので、堤さんが用意してくれたその“仕掛け”を思いっきり楽しみながら演じました(笑)」。
そのいい意味での開き直りや度胸は、たぶんアーティスト活動で培われたものに違いない。MAAKIII自身も「吐き出せる喜びを知っているのは大きですね」と強調する。「役者もミュージシャンと同じで、みんな孤独や痛みを抱えています。そういったものを役やセリフに乗せて思いっきり生きるというのは最高の喜びなんじゃないでしょうか?」。
また「表現することは私にとって生き甲斐なんです」と続ける。「幼少期に沖縄で琉球舞踊に触れ、表現をする人たちから刺激を受けて育ったので、音楽や踊りは自然に好きになりました。ただ、役者としての実績はないので、経験豊富な俳優さんたちと並んだ自分の名前を最初に見た時は吐きそうなぐらい怯えました(笑)。でも、それ以上に喜びを感じて。チャレンジするのって生きている感じがするし、私はそれがすごく好きなんです」。
ズブの素人でセリフもまともに言えない樹利亜は、ことあるごとに唐田が演じる琴李から罵声を浴びせられる。そんな彼女が少しずつ成長し、ほかの3人にも影響を及ぼしていく本作の構成を改めて見直すと、その樹利亜役にMAAKIIIを起用したことが堤監督の最大の演出だったのでは?と思えてくる。そう水を向けると本人も大きく頷く。「俯瞰で見ると確かにそうですね。撮影中は自分のことでいっぱいいっぱいで、そんなことを考える余裕はなかったけれど、堤さんにまんまと操られていたのかもしれないです(笑)」。
とはいえ、あの膨大でハイテンションなシナリオを完璧に自分のものにしているから驚く。「いやいや、唐田さんが演じた琴李役を与えられていたら、泡を吹いてたぶん死んでいたと思います(笑)。あの役はスキルを要するものですから。でも一方では、山田佳奈さんが書かれた劇中劇の『under skin』の物語にすごく惹きつけられた私もいて。死の香りが漂う危うい世界のなかで生きることへのものすごい執念が描かれていたから、そこに惚れたことが、セリフを身体に入れる原動力になりました」。
「と言いながらも、実際は台本を身体に縛りつけていましたね」と笑うMAAKIII。「台本が毎日のように変わるんです。だから、変わったページをひとつずつクリップでとめて、どこに行く時でも、カバンのように分厚くなったその台本を身体に巻きつけていたし、そうやって覚えていったんです。だから、セリフをぶつぶつ言いながら歩いた自分の家の近くの坂道を通ると、いまでもそのセリフが口ずさめて(笑)。車のなかでセリフを覚えることも多かったので、車に乗る時に『ただいま~』って言っちゃうこともあったし、稽古を終えて帰る時に朦朧としていて車をどこに置いたのかわからなくなったこともありました(笑)」。
全員がそれぐらい集中して挑んだこともあって、撮影本番ではOKが出なくてテイクを重ねるような人はひとりもいなかったという。「みんな役が見えていたんだと思います。それこそクライマックスの撮影ではカメラのアングルを変えながら何度も何度も撮ったから、みんな泣き疲れていたし、本当に魂を削っていて。『under skin』に女性が自ら命を断つシーンがあるんですけど、私たちも一度死んでから再生したっていう感覚がすごくあったんです。円形劇場のなかで大きなエネルギーを感じながら、それをやり遂げたという手応えがありました」。