樋口真嗣監督が自身のベスト映画『新幹線大爆破』をリブートする意味「誰かの手にかかるくらいならオレがやる!という感じです」
「新幹線の映像だけでちょっとした映画1本分のスケジュールをかけた」
――新幹線がかっこよく撮れていたと感じたのですが、やっぱりそこは意識されたんでしょうか?
「そりゃあもう意識しましたね。そもそも新幹線のCMって昔からかっこいいんですよね。だから僕たちは、それと同じ、あるいはそれ以上のかっこいい新幹線映像を撮らないといけない。そうじゃないと僕たちが撮る意味がないんじゃないか思っていました。そのために僕たちがやったのは、そういうベストショットを撮れるスポット探し。でも、これが思った以上に大変だった。というのも東北新幹線は東海道新幹線のような築堤の上を走らずに高架橋ばかりなんです。そのうえ線路の両側の壁が高くなっていて、全体の3分の1は車体が見えなくて、絵になる場所がないんです。いい場所を探すために走り回り、40か所くらいで撮って、それを編集でつなげていった。さらに、ヘリで撮ったりドローンを飛ばしたり、新幹線の映像だけでちょっとした映画1本分のスケジュールをかけましたから」
――JR東日本の特別協力は大きかったんですね。
「間違いなく。劇中で描かれる『新青森15時17分発はやぶさ60号東京行き』は実際に運行されていますが、今回は同じE5系の新幹線を上野~新青森間で7往復運転してもらい撮影しました。僕たちは朝の6時30分に上野を出発して6時間かけて青森まで行き、復路がまた6時間。それを7日間繰り返した。かつてない体験でした。あの黒澤明監督の『天国と地獄』(63)でさえも、身代金を河川敷に落とすシーンは、在来線の一両の半分を貸し切って1時間で撮影したのにと思うと贅沢ですよね。
鉄オタなのでうれしかったのでは?とはよく言われるんですが、それより前に『今日、撮り切らなきゃ』という任務がある。もうそこは葛藤です。新幹線に何度も乗れて楽しいというより、心を鬼にして、『今日は絶対ここまで撮るんだ』って。窓の外を見たくても我慢するしかなかった(笑)」
「新作をつくるくらいの気持ちで進めていて、当初はタイトルも変えようかという話が出ていたくらい」
――なるほど!でも樋口さん、大好きな映画を自分でリブートするの、ちょっと怖くないですか?
「いや、ほかの人がやったのを文句を言うよりも全然いい。誰かの手にかかるくらいならいっそ、オレがやる!という感じです。僕のベスト3の1本、『日本沈没』(73)は公開当初、そんなに評価されていなかったんです。話を端折りすぎだとか特撮が怪獣映画みたいだとか、不満を並べる人が多かった。そういうなかで僕がひとりで弁護していたんですよ、小学生のころから。後年、やっと市民権を得て、いざ自分が撮るチャンスが回ってきたら、ねえ(笑)。因果は回る糸車ですよ(笑)。
そういうことがあったせいというわけでもないんですが、本作では新作をつくるくらいの気持ちで進めていて、当初はタイトルも変えようかという話が出ていたくらい。いろんなタイトル案が出たんですが、どうしてもバッタモンみたいな感じになったので、『新幹線大爆破』は『新幹線大爆破』だ!ということになったんです。やっぱり原作のゆるぎなさ、みたいなものがある」
――好きな映画のベスト3とおっしゃっていましたが、『日本沈没』『新幹線大爆破』、あと1本は?
「長谷川和彦(監督)の『太陽を盗んだ男』(79)です。これは絶対、リメイクできないですからねえ(笑)」
――樋口さんにとっては初のNetflixです。この宿願のような企画をどうしてNetflixで?
「『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(15)や『シン・ウルトラマン』(22)で組んでいたプロデュ―サー、佐藤(善宏)さんが『シン・ウルトラマン』を制作している途中で突然、『東宝を辞めます。これからNetflixです』と。僕は彼にずっと『新幹線大爆破』のリブートをやりたいと言っていたので、じゃあまずNetflixで組むのはそれになるよねって。配信は初めてですが、映画会社とはいろんな意味で考え方がちがう。クオリティファーストが徹底していて、作業環境に関しての取り組みも違っていましたね。早い話、すっごくよかった!」
――世界に向けて一斉に配信されるというのもNetflixのいいところだと思います。心の準備はできていますか?
「そこはまだ実感してないんですよ。それがどういうことなのか、まだ自分でよくわかっていない。いま決めているのはエゴサーチを止めるということくらいです(笑)」
取材・文/渡辺麻紀
※草なぎ剛の「なぎ」は弓へんに前+刀が正式表記