樋口真嗣監督が自身のベスト映画『新幹線大爆破』をリブートする意味「誰かの手にかかるくらいならオレがやる!という感じです」
爆弾を仕掛けられた新幹線がノンストップで走り続ける!衝撃的なアイデアと手に汗握る展開で知られる佐藤純彌監督の『新幹線大爆破』(75)。キアヌ・リーヴスの出世作『スピード』(94)にも影響を与えたとされるタイムサスペンスの傑作が、50年の時を経て、Netflix映画『新幹線大爆破』(4月23日より世界独占配信)として生まれ変わる。
『シン・ゴジラ』(16)、『シン・ウルトラマン』(22)で知られる樋口真嗣監督が、『日本沈没』(06)でタッグを組んだ草なぎ剛を主演に迎え、JR東日本の特別協力のもと、壮大なスケールで描きだす。MOVIE WALKER PRESS では樋口監督にインタビューを実施。原作へのリスペクトから鉄オタならではのこだわりなどを明かしてもらった。
「ストーリー上の重要な作戦は、実は原作で指令室にいた警察関係者の一人が出したアイデア」
――樋口さんは本作の原作、1975年製作の『新幹線大爆破』が大好きだと伺っています。何歳の時、どういうふうに出会ったんですか?
「小学校4年生の時に観ました。僕は当時から鉄オタ(鉄道オタク)だったので、ポスターを目にした時から観たくってしょうがなかった。だってポスターのビジュアル、タイトルどおり“新幹線大爆破”してましたからね!
それまで僕が観ていた映画といえば怪獣もの。洋画では『サウンド・オブ・ミュージック』(65)や『ベッドかざりとほうき』(71)とか。そういう作品は基本、親と観に行っていたんですが、本作は保護者ナシで劇場に行きました。確か、親同伴ではなく観た最初の映画だったと思います。しかも、劇場は東映の映画館で、(高倉)健さんも出演しているんだから、めちゃくちゃオトナ度、高いじゃないですか?僕のなかでは、そういういろんな要素が重なって、『これが本当の映画なんだ。いままで僕が観ていたのは子ども向けだったんだ』って。もうドキドキでしたよ(笑)」
――確かに小学4年生からするとオトナの映画ですね。
「ついでに言うと、それまで映画というのは歌っているものだと思い込んでいましたからね。『サウンド・オブ・ミュージック』も『ベッドかざりとほうき』も歌っているし、怪獣映画の『モスラ』(61)や『キングコング対ゴジラ』(62)、『ゴジラ対へドラ』(71)だって歌っていたじゃないですか。だから、歌わない映画もこれが初めてだったんです。それに子どもも出てこないでしょ?高倉健演じる犯人の息子がちょっと出るだけだったから、そういうのも初めてですよ」
――リブートするにあたって気をつけたことは?原作で気になった部分は変更しようと考えませんでしたか?
「いや、原作に一切の不満はありませんでした。だって、初めて観た大人向けの映画でインプリンティングされているので、僕にとってはパーフェクトなんです。子どもの僕にとっては、潰れてしまった町工場のオヤジの気持ちとか、沖縄から上京して来た青年の苦しみとかは本当に初めて受ける感情な訳です。それまで僕がスクリーンで会っていたのは藤岡弘(現在は藤岡弘、)さん演じるヒーローでしたから、まさに突然、剥きだしの現実が現れたわけです」
――では、いまの時代に合わせてアップデートするうえで苦労したことは?うまく時代性を取り込んでいたように思いました。
「いまの犯罪は身代金の要求とかほとんどないんですよ。同じように銀行強盗もない。なぜなら失敗する確率が高いから。営利誘拐等になると携帯電話で足がついてしまう。だったらどうやって今回の事件を成立させるのか?電話の専門家に尋ねたら、ひとつだけ足がつかないシチュエーションがあると提案され、それを基に犯罪を成立させたんです。くわしいことは言えませんが(笑)。ほかにもいろいろなアップデートをしました。新幹線の運転士を女性に換えたこともそうです。そういうアイデアのなかで、ストーリー上、重要な作戦があるんですが、実はそれは原作で指令室にいた警察関係者の一人が出したアイデアなんです。運転指令長役の宇津井健さんがすぐに却下したので憶えてない人が多いでしょうが。あとは犯人像。いまの時代、どういう人物がどういう理由で新幹線に爆弾を仕掛けるのか?を考えるとこれがまるで違う」
――ちょっと驚きの犯人像でしたね。関係者が知恵を絞って対処しようとするのは原作と同じですが、それらの作戦の詳細についてモデルを使って説明してくれることで、視聴者にもよくわかるようになっていましたね。
「あの模型、気づきました?最初はプラレールで次がNゲージ、最後がHOゲージとだんだん高級模型にしました。どんどんクオリティが上がっているんです」
――それはなぜ?
「趣味といえばそれまでなんですが、最初は慌てているのでデパートのおもちゃ売り場で買えるプラレールで、それから時間が経つにつれてだんだん専門的になっていくんです。やっぱり鉄オタなので鉄道模型を全部出したいという気持ちが強くて(笑)。でもあとで知るんですけど、実際にプラレールで検証したりするらしいんですよね。間違ってなかった。
もう一つ、物語のキーにもなる試験車両が出てくるんですが、これは日本人的にはやっぱり試作機だろう!という想いで出したんです。日本人って試作機好きでしょ?『ゴジラ-1.0』(23)にも震電(日本海軍の試作機だった戦闘機)が出ていたし、ガンダムだって試作機ですよ。日本人は試作機が万能だって幻想から離れられないんですよね」