アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第37回 報道姿勢

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アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第37回 報道姿勢

MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第37回は国家の存亡と倫理観の間で揺れる!

ピンキー☆キャッチ 第37回 報道姿勢

グレーのパンツスーツをきちっと着こなし、生え際が千切れそうなくらいに黒髪をグッとまとめた記者だった。

「あなた達!ピンキーのメンバーは何歳ですか!?」
「え?ああ、17歳ですが」
「その17歳の女子を!! あんなのと一画面に一緒に映すなんて出来るわけがないでしょう!!!」
「いやしかしですね、怪人は特殊なバリアに守られてまして、あの子達以外では太刀打ちできないといっ・・」
「言い訳はいらない!!兎にも角にも無理なものは無理です!!倫理的に認められません!!」

吉崎が慌てて都築と女性記者の間に割って入った。

「失礼します。そちらのご主張は分かりました。しかしこれは国家の存亡をかけた一大事なんです。誰かが戦わなくてはならないのですから」
「誰が戦うかどうかこちらは知りません!こんなもの、ダメはダメです!!映像では報じられません!」

先ほどの馬場プロデューサーが女性を落ち着かせつつも、吉崎と都築を交互に見ながら静かに口を開いた。

「もちろんコレはアレに見えるだけでしょう。実際にはアレじゃない、そんなことは僕達だってわかっています。それに真実を報道する義務がある。でもね、何でもかんでも闇雲に垂れ流せばいいって訳じゃないんですよ。あくまでもお金を出すスポンサーがいて、つまりは放送内容に納得するか否かはスポンサーの判断です。そこをクリアしても次には視聴者という名の世論がある。残念ながら昨今は真実か否かだけの問題だけではないんです」

馬場はその場にいる全員を憐れむかのような目で続けた。

「最近は誰もが、誰かのミスを虎視眈々と狙っています。国民総出でといっても過言じゃない。そのミスをした人間の尻尾をむしり取る祭りの開催を待っているんですよ。誰かが凋落すると、自分のヒエラルキーランクが上がると錯覚するんでしょうな。まあ人間とはそういう生き物だ。そんな目に追われながら、スポンサーの目におもねりながら、我々は番組を作らなきゃならないんだ、及び腰になるのもご理解頂きたい。そういう事で吉崎さん、都筑さん、申し訳ないけど今回は無理だ」

吉崎達が二の句を継げずに項垂れていると、前列の数人が帰り支度を始めた。それを潮目に広い会場はガヤガヤと解散の雰囲気が蔓延した。

「あの・・・皆さん待って下さい!!」

先ほどの理屈に対して何の勝算も無かったが、都築は反射的に前へ出た。

「いやその・・分かります・・・皆さんの置かれている難しい立場は重々承知しています。でも・・でもですよ・・・皆さんが危惧するくらいに年端も行かぬ子達が・・ピンキーのメンバーが命をかけて戦っているんです!!」

先の女性記者がまた歩み寄った。

「あなたまだ分からないんですか!?あなただけじゃないわ!防衛省の、国のモラルはどうなってるの!?まずはその希薄な倫理観について問題提起させていただきますからね!!」
「いいから聞けっっっ!!!!!!」

自分が放ったとは思えなかった。同時に叩いた講演台がビリビリと揺れている。都築の裏返った大声は、出口に向かうマスコミ達の足をぴたりと止めさせた。

「・・・・・あのっすみません、でもっ・・でもっ・・倫理もスポンサーも視聴者も・・命あってのものじゃないですか!! 実際にこうして未知数の外敵が出没して、我々人類の生命が脅かされているんですよ! あの子達は・・・もうずっと前から命をかけて戦って・・・日本の、いや地球のために危険を犯してまで・・」

討伐協力費でブランド品を買い漁るメンバーの姿がふと浮かんだが、頭を振って都築は続けた。

「国民が安全に避難する為、それを促す為に・・ そしてあの子達! 戦う環境を少しでも整える為に! 皆さんの協力が必要不可欠なんです!! どうか・・・どうか・・お願いいたします・・どうか・・・」

都築はその場に崩れ落ちると、肩を大きく震わせながら涙した。今こうしている間にも、メンバーは戦闘体制を整えて別室で待機している。怖いだろう。逃げたいだろう。しかしそれでも彼女達は立ち向かうのだ。都築の涙は、体裁ばかりを整えようとする狡猾な大人を代表しての、彼女達への贖罪の涙だった。シンと静まり返ったホールに、ボソボソとした話し声が広まり始めた。

「映し方の角度によっては何とかならないかな?」
「注釈テロップを入れたらどうだろう。そうすりゃ見る側の自己責任だ」
「子宝祭りだって中継してるしな。あの神輿が良くてコレがダメなのはおかしい」

ここまで場の流れに従ってはいたが、内心こうした報道姿勢に疑問を抱く者が少なくなかったのだ。都築の想いに呼応するように、ジャーナリズム精神の持ち主達が立ち上がりつつあった。

「皆さん・・・」

都築はスーツの袖口で涙を拭ったが、熱い想いがとめどなく溢れてきた。俺たち大人が、国そのものが、一致団結してこの豊かな惑星を守らなければならない。その起点を、この場に作るのだ。都築は立ち上がると部下の遠山に目で合図をした。ピンキーのメンバーに出動要請を出したのだ。いよいよその勇姿が、世界中に知られる事となる。協力国が生まれ、機関が連鎖し、新しい力が生まれるだろう。

都築は討伐開始の号令を貰うべく、吉崎に歩み寄ると、ふと違和感に足を止めた。当の吉崎が、そして馬場や他の関係者達が、口をアワアワと震わせ、声にならぬ声を出している。連中の目線にあるモニターに目を向けた都築は、一気に体の力は抜け落ち、腰から砕け落ちた。画面には活動を活発化させていた未確認生物がビンと雄々しく勃ち上がり、その頭部と見られる先端の穴から白い泡のようなものをドクドクと吐き出していた。それらは広範囲に吹き出し、触れた物質は煙を立てて溶け出していた。都築は頭を抱え、冷たい床に突っ伏した。その恐ろしい攻撃力ではなく、もうソレのコレが確実にアレになってしまった事への絶望だった。

一度は開きかけたカメラバッグを閉めるチャックやホックの音が聞こえる。ため息混じりにドヤドヤと場を後にする足音が、徐々に少なくなっていった。誰かも知れぬ数人が、去り際に優しく肩に手を置いたりもしてきた。おそらく馬場の声だろう『吉崎さん、コレはもうどうしようも。申し訳ない』と同情すると、扉から出て行った。シンと静まり返った広いホールに残された都築達はしばらく何も発せず、モニターを力無く眺めていた。

(つづく)


文/平子祐希

■平子祐希 プロフィール
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
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