【第97回アカデミー賞】2度目の主演男優賞受賞のエイドリアン・ブロディが熱いスピーチ「憎悪を野放しにしてはいけない」

【第97回アカデミー賞】2度目の主演男優賞受賞のエイドリアン・ブロディが熱いスピーチ「憎悪を野放しにしてはいけない」

現地時間3月2日(日本時間3月3日)、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで開催された第97回アカデミー賞授賞式。まだその熱気冷めやらぬなかだが、このコラムでは特に筆者のなかで印象的だった授賞式スピーチを2つピックアップして、それぞれの魅力をお伝えしたい。本記事はその前編となる。

まず筆者が注目したいのは、なんと言っても主演男優賞に輝いた『ブルータリスト』(公開中)のエイドリアン・ブロディだ。ブロディは『戦場のピアニスト』(02)以来、22年ぶりのノミネートで2度目の同部門でのオスカーを手にした。ブロディは、受賞の喜びや感謝を伝えたあと、現在、戦火にいる人たちや抑圧、差別を受けている人々を代表して自分がここに立っていると、熱を込めて訴えかける姿が印象に残った。

ホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート役を熱演したエイドリアン・ブロディ
ホロコーストを生き延びたハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート役を熱演したエイドリアン・ブロディ[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

本作でブロディが演じるのは、第二次世界大戦下にホロコーストを生き延び、アメリカへと渡ったハンガリー系ユダヤ人建築家ラースロー・トート役。監督、脚本を務めた36歳の気鋭ブラディ・コーベットで、ラースローの数奇な人生を、215分にわたる渾身の人間ドラマとして描いた。第81回ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映され、銀獅子賞を受賞し、第82回ゴールデングローブ賞受賞では作品賞(ドラマ部門)、監督賞、主演男優賞(ドラマ部門)を獲得した『ブルータリスト』。第97回アカデミー賞主演男優賞、作曲賞、撮影賞の合計3部門にて受賞を果たした。

第96回アカデミー賞主演男優賞は『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディ
第96回アカデミー賞主演男優賞は『ブルータリスト』のエイドリアン・ブロディ[c]A.M.P.A.S.

ブロディといえば、前回『戦場のピアニスト』での授賞式では、ハル・ベリーと熱いキスをしたことが話題を呼んだが、今回も名前が呼ばれると、現在のパートナーであるファッションデザイナーで女優のジョージナ・チャップマンと熱烈なキスを交わしてから壇上に上がった。

【写真を見る】現在交際中のジョージナ・チャップマンと熱いキスを交わしたエイドリアン・ブロディ
【写真を見る】現在交際中のジョージナ・チャップマンと熱いキスを交わしたエイドリアン・ブロディ[c]A.M.P.A.S.

まずは「受賞できたことを本当にうれしく思います。俳優は静かな仕事です。ときにはきらびやかなこともありますが、どこにいてどんな仕事をしても、成し遂げたものがすべてです。だからこそ、感謝の心を忘れないことが重要です。自分が愛する仕事をできていることに感謝しなくてはなりません。また、このような賞をいただけたのは、目指すべき目的地を示していたからかと。それは私が演じた登場人物が示していたところかもしれません。俳優人生のなかで、自分はすでにピークを迎えたと思っていましたが、再びこのような形で賞を受賞できたことをうれしく思います。それはこの20年間、それだけ重要な役割を演じられたということでもあるかなと思っています」と胸を張った。

エイドリアン・ブロディ、マイキー・マディソン、ゾーイ・サルダナ、キーラン・カレンというオスカー受賞者の4ショット
エイドリアン・ブロディ、マイキー・マディソン、ゾーイ・サルダナ、キーラン・カレンというオスカー受賞者の4ショット[c]A.M.P.A.S.

そして「この賞を同じようにノミネートされたほかのすばらしい俳優の方々と共有したいです」と語り、共演者や友人、製作スタッフ陣に感謝と敬意を示したブロディ。すでにスピーチのタイムリミットを知らせる音楽が流れるなか「もう終わりますから!」と懇願する。

エイドリアン・ブロディとジョージナ・チャップマンとの2ショット
エイドリアン・ブロディとジョージナ・チャップマンとの2ショット[c]A.M.P.A.S.

その後、愛する妻チャップマンについて、「ジョージナ。君は私の人生を輝かせてくれました。また、美しい子どもたちも、いろんなことがありましたが、僕を家族の一員として受け入れてくれてありがとう。パパはオスカー像を持って帰るからね」と笑顔で語った。

助演女優賞にノミネートされたフェリシティ・ジョーンズは受賞ならず
助演女優賞にノミネートされたフェリシティ・ジョーンズは受賞ならず[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

さらに「短くまとめますから!」と念を押してから「両親にも感謝しています。今日、この会場に来ています。両親のおかげで人間としての基盤を築けたと思っています。親切な心とすばらしいメッセージを受け継ぎ、人生を切り開く力をもらいました」と述懐。

エイドリアン・ブロディと、司会を務めたコメディアンのコナン・オブライアン
エイドリアン・ブロディと、司会を務めたコメディアンのコナン・オブライアン[c]A.M.P.A.S.

続けて「私はここで、戦争の苦しみ、犠牲、多くの抑圧を受けた人たちを代表して話したいと思います。反ユダヤ主義、人種差別地域の方々などのために、より健全で幸福な世界になるよう祈りたいです。このような形で憎悪を野放しにしてはいけません!」と訴えかけるとわれんばかりの拍手が上がる。


『ブルータリスト』は公開中
『ブルータリスト』は公開中[c] DOYLESTOWN DESIGNS LIMITED 2024. ALL RIGHTS RESERVED. [c] Universal Pictures

その後も、再びステージから退場勧告の音楽が流れると、彼は「はい。これで退場しますね」とおちゃめに語り「みなさんを愛していますし、感謝しています。正義のために戦いましょう。笑顔を絶やさず、一緒に再建していきましょう。ありがとうございました」と、熱いスピーチを締めくくった。

文/山崎伸子

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