ケイト・ブランシェットが東京国際映画祭で難民映画基金でのチャレンジ語る、ゲスト登壇の役所広司には「いつ一緒にお仕事できますか?」
現在開催中の第39回東京国際映画祭で10月30日、「ガラ・セレクション」部門に選出されている「ディスプレイスメント・フィルム・ファンド(DFF)」による第1回助成短編5作品が上映。上映後のトークショーに、DFFの代表を務めるケイト・ブランシェットと、監督として参加したモハマド・ラスロフ監督、シャフルバヌ・サダト監督が登壇した。
DFFは、避難を余儀なくされた映画制作者や避難民としての経験を描いてきた映画制作者たちを支援・助成するために設立された基金。2025年にロッテルダム国際映画祭で始動し、創設パートナーには日本の企業「ユニクロ」も参画。その第1回作品として今回上映されたのは、兵役によって日常が一変した若いウクライナ人女性が催眠療法を体験する様子を描いたマリナ・エル・ゴルバチ監督の『ローテーション』、カブール中心部のジムに集まった女性たちを描くサダト監督の『スーパー・アフガン・ジム』。
また、シリア出身の映画作家ハッサン・カッタンとファディ・アル・アラビの体験した紛争と、イギリスでの難民申請中の日々を記録したドキュメンタリー『アライズ・イン・エグザイル/故郷を追われた盟友たち』、後戻りのできない選択を迫られた寡黙な男の内面に迫るモ・ハラウェ監督の『ウィスパーズ・オブ・ア・バーニング・セント/残り香のささやき』、ドイツに亡命したイラン人作家が新たな言語を見つけ出そうとする姿を描くラスロフ監督の『センス・オブ・ウォーター』の計5作品。
あたたかな拍手に迎えられながら登壇したブランシェットは「私はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の親善大使を10年以上務めておりました。そのなかで、世界の67人のうち1人は国を追われた状況にあり、そこに映画制作者たちも大勢いることを知りました。彼らを大きな場に紹介したいという想いから、このファンドを立ち上げました」と基金創設の経緯に触れ、「あえて短編作品にしたのは、実験的なことやリスクを負うこともできるから。そのおかげで才能あふれた5つの作品が今回生まれました。参加された監督の方々に、改めてお礼を申し上げたいと思います」と述べた。
『悪は存在せず』(20)で第70回ベルリン国際映画祭金熊賞に輝いた後、『聖なるイチジクの種』(24)を秘密裏に製作。政府を批判したとして懲役8年の実刑判決が下されドイツへと亡命したラスロフ監督。「私にとってイミグレーションは、よその国の文化や人々と触れる一つのチャンスだと思っております」と語り、「しかし自分の意思ではなく抑圧からそれを強いられている問題がある。そして映画監督としては新しい文化のなかで新しい表現をする時に、言葉の壁があります」と、今回手掛けた短編が自身の体験から生まれたものであることを説明。
一方、最新長編の『No Good Men』が第76回ベルリン国際映画祭のオープニング作品に選ばれたサダト監督は、イランで生まれ、自身のルーツであるアフガニスタンに戻って育った生い立ちを振り返り、「正直なところ、私には自分が難民であるという感覚がわからず、ある土地に自分がいるべきという感覚もなかった」と告白。「20歳の時に初めてフランスに渡り、女性たちがみんな胸を張って誇らしげに歩いている姿に感銘を受けました。性差別や家父長制度の影響もあり、自分自身の最初の“ホーム”である身体に自信を持てない人がたくさんいる。それについての想いをこの映画で語ることにしました」と語った。
この両監督の作品についての感想を聞かれたブランシェットは、まず2人に対して深々と敬意を表明。「異なる題材を選んでいましたが、誰もが持ち合わせている普遍的な人間性が描かれているという点で、私自身も映画とのつながりを見つけることができました」と語り、「『センス・オブ・ウォーター』は私自身も言語の壁を感じた経験があるので共感でき、『スーパー・アフガン・ジム』は女性同士のコミュニティを持つ喜びと自由を感じ、ユーモアもあって非常にすばらしいものでした。5本の作品それぞれすばらしく、彼らと仕事ができて非常に光栄に思います」と改めて感謝を伝えた。
その後、会場には、特別ゲストとして俳優の役所広司が登場。DFFとコラボレーションしたユニクロのチャリティTシャツプロジェクト「PEACE FOR ALL」をアピールし、両監督に作品の感想を伝えると、「これから第2弾、第3弾と、この支援から生まれる映画と映画作家たちを応援していこうと思います。ケイトさん、これからも頑張ってください」とエールを送る。それを受けてブランシェットから「役所さん、いつ一緒にお仕事できますか?」と質問が投げかけられ、会場からは大きな拍手が。
そしてブランシェットは「役所さんのような名だたる俳優の方にリアクションをいただけて、とてもありがたく思います。今日観に来てくれた方々のリアクションにも興味があります。これからもこのプログラムのDNAは、多くの作家たちにチャンスを与えることでしょう。世界的なチャレンジであるこの作品群をなるべく多くの方々に体験していただきたいと思います」と呼びかけ、すでに第2弾の制作が進行していることを明かした。
取材・文/久保田 和馬

