「美しい彼」の萩原利久&八木勇征から『時給三〇〇円の死神』の西畑大吾まで…“彼ら”の持ち味や新味を引きだす酒井麻衣監督の演出力
俳優自身が持つ個性で、キャラクターの魅力を拡張!
また、酒井監督作品では、俳優自身の雰囲気や個性が、役柄の魅力へと巧みに落とし込まれているのもおもしろい。『ストロベリームーン 余命半年の恋』(25)では、當真あみ演じる萌と恋に落ちる日向役に、オーディションで齋藤潤を抜擢。酒井監督が惹かれたのは、「芝居を見ているだけで目の奥が潤んでしまう」という日向にも通じる齋藤の誠実なまっすぐさだったという。そんな齋藤の持ち味が生かされたのが、悲しみの慟哭からひまわり畑へとつながっていくシーンだ。絶望を胸に秘めながらも、萌を少しでも勇気づけようとする日向の姿には、純朴であどけなかった少年からの成長の兆しと頼もしさが宿っていた。
一方、俳優が持つイメージを生かしながら、そこに意外な一面を重ねることも。自身で脚本も手掛けた『チャチャ』(24)では、伊藤万理華演じる天真爛漫なチャチャに本人の個性を重ねて相乗効果をねらう一方、彼女が恋する樂役の中川大志からは、これまでとはひと味違う表情を引きだして見せる。具体的なエピソードはネタバレになるため控えるが、ふと垣間見せる危うさが樂というつかみどころのない人物像にさらなる奥行きを与えており、印象深い。
役者・西畑大吾の新たな顔を引きだした、最新作『時給三〇〇円の死神』
そんなエモーショナル演出に長けた酒井監督の手腕が存分に発揮されているのが、最新作『時給三〇〇円の死神』だ。父親の逮捕、両親の離婚、恋人との別れなどが重なり、生きる希望を失っていた大学生の佐倉真司(西畑)。ある日、同級生の花森雪希(福本)から時給300円の“死神”のアルバイトに誘われた彼は、この世に未練を残した死者たちの“心残り”に寄り添うなかで、自身もまた少しずつ前を向いていく。
「感情の機微を丁寧に表現できる」ことが高く評価され、真司役を託されたという西畑。なかでも酒井監督の目に強く焼き付いたのが、真司がとある真実を知ったあとのワンシーン。ワンカットの長回しのなか、受け入れがたい現実に打ちひしがれ、行き場のない想いを抱えた真司は静かに涙を流す。言葉にならない真司の悲しみがじわじわと伝わってきて、観ているこちらも思わず涙がにじむ。役者として多様な引きだしを持つ西畑だが、本作では、言語化するのが難しい複雑な感情までも表情や佇まいで鮮やかに描きだし、新たな顔を披露している。
俳優を信頼し、その人自身の持ち味をキャラクター造形に生かしてきた酒井監督。「最終的に役として生きて表現してくださるのは俳優さんの力」と語る監督の言葉どおり、本作では西畑の芝居によって真司という人物に確かな存在感が与えられている。真司は死者たちとの出会いを経てどのように変わっていくのか。その結末をぜひ劇場で見届けてほしい。
文/足立美由紀
