小島秀夫、21歳のケイン・パーソンズ監督に「嫉妬を覚えるくらい」 『バックルームズ』に最大級の賛辞
若き天才映像クリエイターのケイン・パーソンズが16歳で発表したYouTube短編動画シリーズを、A24とのタッグで自ら長編映画化した『バックルームズ』(公開中)。本作の来日舞台挨拶が9月4日にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ、パーソンズ監督とゲームクリエイターの小島秀夫が出席した。
本作の舞台となるのは、都市伝説とされていた空間“Backrooms”。どこまでも続く黄色い壁紙の部屋、終わりのない廊下。不自然な間取りと、意味を失い床に埋まった設置物。わずかに現実からズレている“リミナルスペース”で、観客は“最高密度の不安と恐怖”を体験することになる。5月29日に全米公開されると、初週末の興行収入が8,100万ドル(約129億円)を突破。さらに初週末の世界興収は1億1,800万ドル(約188億円)に達し、世界興収ランキングでも1位を記録。パーソンズ監督は、アメリカを含む世界48か国で初登場1位となる映画を生み出した“史上最年少監督”となった。
YouTube発のクリエイターが映画史を塗り替えるという、歴史的快挙を成し遂げたパーソンズ監督。観客から大きな拍手で迎えられると、パーソンズ監督は「皆さん、こんにちは。“Backrooms”のシリーズに、僕は何年も関わってきています。それがこんなふうに世界中に広がっていくことを、奇妙な気持ちで見ていました。すごく多くの人に届いている」と会場を見渡しながら、「お越しいただいてありがとうございます。皆さんに映画を観ていただく瞬間を、すごくワクワクしながら待っていました」と興奮の面持ちを見せた。今回が初来日となったが、「仕事でいろいろなところを訪れています。建築やアーティスティックな芸術文化、テクノロジーの融合といった意味では、日本が一番好きかもしれない」と日本が気に入った様子。「近い将来、日本でどなたかとコラボできたらいいなと思っています」と期待を口にしていた。
「メタルギア」シリーズをはじめ、独創的な世界観でファンを魅了し続ける日本を代表するクリエイターである小島は、パーソンズ監督に花束を贈った。すでに本作を鑑賞したという小島は「ようやく、日本公開。僕も興奮しています」と心境を明かしながら、「彼はいま21歳、僕は63歳」とにっこり。「特別な体験になると思います」とこれから映画を鑑賞する観客に向けて、太鼓判を押した。
本作は、映画スタジオA24とタッグを組んだパーソンズ監督の長編デビュー作となる。「2021年くらいから、オンラインでショートフィルムを発表した」と映像制作に取り掛かった16歳当時のことを振り返ったパーソンズ監督は、「進撃の巨人」をテーマにした“歴史的ドキュメンタリー風”の映像を作っていたことも告白。そういった作品が次第に注目を集めるなか、A24から連絡があったそうで「彼らといいコラボレーションができた。満足しています」と充実の表情を浮かべた。
23歳で「メタルギア」を作った小島監督も、若い時から評価を受けてきたクリエイターだ。小島監督は「僕がA24から連絡があったのは、59歳くらいの時」と笑いながら、「戦略もあるし、才能もある。運や縁もあって、A24と出会ったことで、この作品が大ヒットを果たした。本当の旅路はこれから。うらやましいです」と若き監督への羨望をにじませながら、温かなエールを送った。
VHSや記録映像風の演出を用いた、アナログホラーの手法で描かれる本作。映画の感想に話が及ぶと、「彼はデジタル世代で、しかもゲーマー。3D空間を捉える感覚で育った世代」と切り出した小島。「いろいろなアートな仕掛けもあって。エンタメなんですが、アート。サウンドも含めてクレバーなことをやっている。それを観て、嫉妬を覚えるくらいだった。若返りたいなと思った」と最大の賛辞を送り、「デジタルで育った彼がアナログを使い、それが新しいエンタメになっている。アナログで育った僕は、デジタルで新しいゲームを作った。同じようなバランスで、新しいものを作っている。共通点があるという驚きがありました」と語る。
さらに小島は「精神世界の話も絡んでくる。ビジュアルの設計や、音の入れ方もおもしろい。ストーリーテリングの要素もある。これはもう、勝てないなという感じがしました」と作品への感嘆をにじませつつ、「皆さんで集まって、いろいろ議論をして、もう一度観たくなるような楽しみが出てくる。そこが醍醐味。“若い世代、やるな”と思った。これからエンタメを作っていくのは、彼らです」とエール送る一方、「でも僕は引退しません」と意欲をのぞかせて、会場を盛り上げていた。
「才能あるすばらしい人たちと映画を作れた。ラッキーだった」と謙虚に語ったパーソンズ監督は、「ゲームをやっている時のような没入感に似ているかもしれない」と本作ならではの没入感について紹介。小島は「ゲームでは特に、そこにいる感覚。臨場感が大切。あらゆるディテールを駆使して、それを作る。あまりにも異空間にお客さんを入れてしまうと、ポカンとしてしまう」と心がけていることを語り、「本作は、現実と地続きの世界。でもちょっと違う。“自分と近い距離の異空間をいかに作るか”という工夫がなされていた」とその巧みな演出を評価。とりわけ、音の使い方が秀逸だと称えた。パーソンズ監督は「すごくうれしいです。ありがとうございます」と笑顔を見せ、ゲームからも影響を受けているとコメント。「小さなころから、『Portal』などValve(バルブ)社のゲームをよくやっていました。トーンについては、かなりインスピレーションを受けました」と語っていた。
取材・文/成田おり枝
