痛々しい拷問描写と驚愕の展開で賛否両論を巻き起こした衝撃作『マーターズ』4Kデジタルリマスター版公開記念!フレンチホラーの“現在地”を探る
映画生誕の国にしてホラー映画不毛の地、フランスにて2000年代初頭に突如勃発した、フレンチホラー・ムーブメント。その軸を担った衝撃作『マーターズ 4Kデジタルリマスター』が現在公開中だ。
パスカル・ロジェ監督の2作目『マーターズ』(08)は、子どもの頃に何者かに拉致、監禁され、拷問を受け、命からがら脱出した少女が、大人になり復讐を果たすため、ある幸せそうな家族のもとを訪れる。という非常にスリリングなオープニングから始まり、その後、謎のカルト教団も登場し、あまりにも痛々しい拷問シーンが延々と続くなど極めてショック度の高いブルータルな、それでいて繊細で美しい重層的で深淵なエクストリームホラーに昇華されている。監督の当時の怒りと絶望が込められた哲学的で知的な本作は、その後同名の英語版リメイクも製作されるなど、一大センセーションを巻き起こした。
“フレンチホラー”のパイオニア的作品とは?
このムーブメントのパイオニアといえば、アレクサンドル・アジャ監督の『ハイテンション』(03)だ。恋心を抱く友人女性の郊外の実家で週末を一緒に過ごすことになった大学生のマリーだが、そこに突如謎の殺人鬼が襲来する。というレズビアン・ラブストーリーとサイコロジカルホラーの要素も導入した、ウィリアム・ラスティグ監督の『マニアック』(80)やウェス・クレイヴン監督の『鮮血の美学』(72)をも彷彿とさせる鮮烈なスラッシャー・ホラーだ。プロデューサーには、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったリュック・ベッソンが名を連ねている。準主役を演じたのは、ベッソンの元妻でいまは監督としても活躍するマイウェン。トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネスでの上映後、激しい争奪戦が繰り広げられ、最終的にライオンズゲートがアメリカの配給権を獲得した。
次に誕生したのが、アレクサンドル・バスティロとジュリアン・モーリーの監督デュオのデビュー作『屋敷女』(07)。クリスマス・イブを自宅で過ごす妊婦のもとに謎の女性が訪れ、戦慄の夜が幕を開ける。あまりにも過剰な血みどろスラッシャーだが、そこに『ハロウィン』(78)や『リング』(98)のようなスーパーナチュラル・ホラーの要素を導入するなど、監督2人のホラー映画愛がつまった快作(ジュリアンいわく、ラストシーンは三池崇史監督の『オーディション』からの影響もあるという)。主演を務めたのはフランスが誇るスター、ヴァネッサ・パラディの妹アリソン・パラディ(彼女もフランスでは有名人)と、ベアトリス・ダル。カンヌ国際映画祭批評家週間でのワールドプレミア上映後、トロント国際映画祭など世界各国の映画祭で話題を呼び、その後レイチェル・ニコルズ主演の英語版リメイク『インサイド』(16)も製作された。
そしてもう一本、ザヴィエ・ジャン監督の『フロンティア』(07)も忘れてはいけない。フランス大統領選で極右党が躍進し、暴動が起こるパリから脱出した犯罪者の若者たちは、国境付近の宿に転がり込むが、そこを経営していたのは異常なネオナチ一家でした。という『悪魔のいけにえ』(74)と『ホステル』(05)を想起させる、ダークで血みどろの壮絶なホラーだが、ムーブメントの他作品と比較してアクション色が濃厚。その手腕を買われて、ザヴィエ・ジャンは人気ゲームを映画化した、リュック・ベッソン製作のアクション大作『ヒットマン』(07)でハリウッドデビューを飾る。同作は世界興行収入1億ドルを突破するヒットを記録した。
『TITANE/チタン』や『サブスタンス』など、カンヌ国際映画祭受賞作も
その後、ムーブメントを牽引した監督たちはハリウッドに招かれるなど、フレンチホラーのムーブメントは終焉したかに思われたが、2016年にジュリア・デュクルノー監督が『RAW 少女のめざめ』で鮮烈なデビューを飾る。カンヌ国際映画祭の批評家週間でワールドプレミア上映された、この繊細で美しい衝撃的なカニバリズム・ホラーは大絶賛され、2作目のボディ・ホラー『TITANE/チタン』(21)は第74回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールに輝く。監督3作目でドラマ性の高いボディ・ホラー『Alpha(原題)』(25)は、昨年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門でお披露目となった。
2017年には、同じくフランス人女性監督、コラリー・ファルジャのパワフルでバイオレントなアクション・スリラー『REVENGE リベンジ』が、トロント国際映画祭のミッドナイト・マッドネスでワールドプレミア上映され、大絶賛される(NEONが北米の配給権を獲得)。2024年には監督2作目となる、デミ・ムーア主演のボディ・ホラー『サブスタンス』が第77回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞し、世界興行収入7700万ドルを超えるヒットを記録。賞レースも席巻し、なんと第97回アカデミー賞で作品賞を含む5部門にノミネートされ、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した。ハリウッドの光と闇を描いた作品だが、実際には監督の母国フランスで撮影されたことも話題を呼んだ。
ムーブメントの監督たちの現在地だが、アレクサンドル・アジャはザヴィエ・ジャンが監督しNetflixでメガヒットを記録したサメホラー『セーヌ川の水面の下に』(24)の続編、『Under Paris 2(原題)』を撮了し、秋にはヒット作『クロール ―凶暴領域―』(19)の続編、『Crawl 2(原題)』の撮影に入る(動物パニックホラーが続く)。ザヴィエ・ジャンは、アリソン・ウィリアムズ(『ゲット・アウト』)、ミシェル・ランドルフ(『スクリーム 7』)、シム・リウ(『シャン・チー/テン・リングスの伝説』)主演のSFサバイバルスリラー『Homewrecker(原題)』の撮影を、ちょうど先週フランスで終えたばかり。
アレクサンドル・バスティロとジュリアン・モーリーは、ノラ・アルネゼデール(『マニアック』)主演のハイコンセプトなスリラー『The Cliff(原題)』の撮影が間もなく始まる。そして、パスカル・ロジェの久々の監督作『Nocturnal(原題)』が今秋ラトビアでクランクインする予定。デヴィッド・バーク(『ベネデッタ』、『スレンダーマン 奴を見たら、終わり』)が脚本を執筆した、女性ヴァンパイアが主人公のホラー映画だ。これらの監督の新作は来年にはお披露目になるだろう。コラリー・ファルジャの新作も早ければ来年には動き出すだろうか? 期待して待ちたい。
文/小林真里

