あのの切実な願いは「3つある家の退去手続き!?」『君の名は。』『すずめの戸締まり』スタジオの最新作『しらぬひ』公開記念舞台挨拶
『君の名は。』(16)、『すずめの戸締まり』(22)など、社会現象化する大ヒット作を生み出し、国内外から熱い注目を浴びているアニメーションスタジオ、コミックス・ウェーブ・フィルム。そんな同スタジオが見出した新たな才能、片野坂亮監督が描く短篇アニメーション映画『しらぬひ』が公開中。8月23日には、新宿バルト9にて公開記念舞台挨拶が行われ、あの、花澤香菜、三木眞一郎らキャスト陣と片野坂亮が登壇。トークセッションを繰り広げた。
物語の舞台は1996年、夏の終わり。熊本の海辺の町で暮らす10才の少年・湊(みなと)は、酒に溺れる父と2人きりで、息をひそめるように生きていた。唯一の心の拠り所は、弁天島に現れる少女の神さま“べんちゃん”。彼女と過ごすひと時だけが、自分を取り戻せる時間だった。しかし児童保護施設への湊の一時保護が決まり、べんちゃんとの別れの時が迫る。湊は、ひとつだけ願いを叶えてくれるという、海に浮かぶ不思議な光“しらぬひ”に祈りを捧げるが、父への憎しみが募るにつれ、その“祈り”は取り返しのつかない“呪い”へと姿を変えていく。喪失と赦しの果てに、湊が辿り着く「ほんとうの願い」とは…?
本作の主人公となる10才の少年・湊の声を担うのは、音楽活動に加え、俳優、声優、タレント、モデルと、様々な分野で才能を魅せ続けるあの。湊役であのをオファーした理由を聞かれた片野坂監督は、もともと彼女のアーティストとしての活動や、作品制作に対する姿勢に感銘を受け、リスペクトしていたから、と語る。
「僕がそもそも、アーティストとしてのあのさんのファンでして。それは、仕事に向かう姿勢であったり、作品づくりの熱量とか真っすぐさ、そういったところを自身も“ものづくりに取り組む人間”として、参考にしていたような部分がたくさんありまして。参考というか、もうリスペクトですね。そうしたなかで、今回のシナリオに行きついた時に、プロデューサーの新井修平さんからも、この物語の、湊が抱えている痛みを正しく世の中に伝えられるのは、あのさんしかいないと思うと言っていただけて。そういった経緯があり、お声がけさせていただいた次第です」。
そうして少年の役をオファーされたことについて、あの自身は驚きながらも「声をかけてもらえたということは、自分ならできると思ってもらえたから」だと受け止め、覚悟を決めて引き受けたと話す。
「オファーをいただいた時はすごく驚きました。僕自身は大人の女性なのに、10歳の男の子の役ということで、最初は“できるかな…”という不安があったんですけど、できると信じてくださったからこそ声をかけてもらえたと思うので、可能性を少しでも感じてもらえたことがすごくうれしくて。その期待に応えたいなという想いで、引き受けさせていただきました。そうして脚本を読ませてもらって、僕の中に“湊と重なる部分”を見出してくださったのだと思うと、すごくやる意味があるなと感じたし、演技の中で“僕がやる意味”をしっかり出していけるように努めたいなとも思って、覚悟を決めて引き受けさせていただきました」。
10歳の少年の気持ちをどう捉えるか?どのようにして声に気持ちを乗せるか?そうした点にも、あのならではのこだわりが光る。
「演技について意識したことは、やっぱり、技術的な面ではプロの方たちとは天と地ほどの差があるので、そこは埋められないところなんですけど、やるからには、観てくださる皆さんに湊の想いを届けたいというところがあって。“湊がどんな10年を過ごしてきたのか”を感じ取ってもらえるお芝居をすごく意識しました。べんちゃんや父親のマサルだけでなく、近所の人たちに対してもどう思っているか、そういうところまで意識しながら、“この状況ならこういう声を出すかな”とか、“この場面ならこういう感情になるな”とか、細かいところまで考えながら演じました」
イベントの中盤では、本作にはどんな願いでもひとつだけ叶えてくれる“しらぬひ”が登場することにちなみ、登壇者一同が「いま叶えてもらいたい願い」を発表するコーナーが展開。
花澤は「パンが大好きで、毎日パンを食べたい女なので、手に取るパンが全部焼きたてになったらうれしいです」、三木は「車が好きなので、スーパーカーを1台所有したいですね」、片野坂監督は「咳が止まらないので、なんとかして止めたいですね。本作を作り上げるのに生命力を使いすぎたみたいで、完成してから咳が止まらないんです」と答える中、あのからは意外な回答が飛び出し、客席を沸かせる。
「退去届ですね。僕に代わって、誰かに退去手続きをしてほしいです。実はいろいろあって、いま、家が3つある状況でして…。こういう手続きが苦手なので、誰か代わりにやってもらえると助かります」。
続けて一同には、主人公・湊の年齢が10歳であることにかけて、「自分自身の10歳だったころを思い出して、それがいまにも繋がっているな…と感じるエピソードを教えてください」とのお題が投げかけられる。
これに対して花澤は「10歳の時には子役をやっていて、バラエティ番組に出たりしていたんですけど、そのころからテレビで話せそうなエピソードを見つけては、ネタ帳に付ける…ということをしていました。それをブランコに乗りながら、友だちの前で発表するのが日課でした」、三木は「回転式のジャングルジムに3、4人くらいの友だちといっしょにつかまって。ぐるぐる回しながら、誰がいちばん長くつかまっていられるか…という遊びをよくしていました。その頃から、体を使う遊びは好きでしたね」と回答。あのも遊具つながりで、子どものころはずっと鉄の棒にぶら下がっていた…というエピソードを話す。
「10歳のころは大人しかったですね。かなり引っ込み思案で、人とほとんどしゃべれなかったけど、別に楽しく生きてるみたいな感じで、鉄の棒にずっとぶら下がってました。雲梯とかじゃなくて、ただ縦と横に伸びている鉄の棒です。それに30分以上ぶら下がって我慢するのをずっとやっていたので、我慢強さとか根性みたいなのはそこからきていますね」
また片野坂監督は、幼少期は頭に大量の蜂蜜をかけていた…という奇妙なエピソードを語り、キャスト陣を驚かせた。
「10歳のころ、僕は髪の毛がサラサラなことが自慢で、家族でコストコにいくたびに大きな蜂蜜を買ってもらっていたんですね。そしてそれを大量に頭にかける…ということをよくしていました。トリートメント感覚で蜂蜜をぶっかけていたんですね。でもそうすると、髪がサラサラになるだけでなく、頭から蜂蜜が流れ落ちてきて、これが口に入ると甘くて美味しいんですよ。それがやめられなくて、気づいたら小太りの体型になっていました」
気になるトークがくり広げられるなか、最後に登壇者それぞれが締めの挨拶を行い、イベントは無事に終了した。
取材・文/ソムタム田井
