「36分とは感じられない密度」「終始号泣」…『君の名は。』スタジオ最新作『しらぬひ』心を揺さぶる“感情の波”を感想コメントから読み解く
「残酷にも希望にも感じるラスト」観客が抱いた“感情”の正体は?
では具体的に、観客たちは本作を観てどのような感情を抱いたのだろうか?アンケートで訊ねてみたところ、もっとも多かった回答は「切なかった」というもの。また「美しかった」や「感動した」というポジティブな感情と同時に「怖かった」や「怒りを覚えた」という感情も目立っており、その両方を挙げる観客も。「一度観ただけではうまく感情が整理できない」(40代・男性)という声も見受けられた。
「湊の生きたかったような未来に結局はなれていないとかをふまえるとやりきれない気持ちになった」(10代・女性)
「愛と憎しみという近すぎる思いがぶつかり合って傷つけあってしまう切なさと苦しさに、胸が締め付けられました」(30代・女性)
「思った以上に生ぬるくない、リアルを現実の厳しさを描いていた」(30代・女性)
「祈り続けても願いが強くても叶うとは限らない。だけどラストシーンにひとすじの希望をみた」(40代・男性)
「行き場のない子どもの現実を、ファンタジーチックに残酷にも希望にも感じるラストに感動した」(20代・男性)
観る人自身がそれまで経験してきたことや、作品と出会うタイミングなどで捉え方が大きく変わるのは、アニメや映画に限らずあらゆる作品の醍醐味でもある。この映画を観ることで、自分がどのような感情を抱くのか。それを確かめてみるというのも、多くを語らない短編映画の楽しみ方のひとつなのかもしれない。
また、コミックス・ウェーブ・フィルムの新作ということもあり、多くの観客が作品全体を包む美しい世界観や映像美を期待していたようだ。もちろんそれについては「空の映像など、見入ってしまうような美しさが随所に見られた」(20代・女性)というコメントからわかるように満点回答。
「不知火(しらぬひ)の情景が印象的で、人物の感情に共鳴するような演出がとても綺麗に映った」(30代・男性)、「セリフで多くは語らず、キャラクターの表情や美しい描写で場面場面の感情を伝えていく。アニメーション作品特有の良さが前面に押し出されていて素敵」(10代・女性)と、大満足の声が寄せられている。
片野坂監督は本編の絵コンテをたった1人で1か月半という短期間で描きあげ、さらに全体の325カットのうち3分の2以上のシーンのラフ原画を自ら手掛けたのだとか。「自分の手が入っていないカットはありません」と片野坂監督自身が語っているように、作り手の強い想いがすべてのカットに表れているからこそ実現できた濃密な世界観。かつて新海監督がたった1人で作り上げた『ほしのこえ』(03)を思いだしたアニメファンもいたようだ。
「このようなテーマを短編映画に持ち込むというのも挑戦的で良いと思った」(20代・女性)
「本当に36分とは感じられない密度ですばらしかった」(20代・女性)
「この作品の長尺版も見てみたいです」(30代・男性)
「短い時間での表現がむずかしいなかで、濃い内容、ストーリー、展開の完成度が高かった」(30代・男性)
群雄割拠のアニメーション界の次代を担うクリエイターになること間違いなしの片野坂監督。その商業デビュー作である本作は、近い将来、リアルタイムで劇場鑑賞をしたことを自慢できる作品になってもなんら不思議ではない。そんな付加価値にも期待しつつ、なかなか劇場で上映される機会が少ない短編映画をスクリーンで味わう体験と、まだ見ぬ“感情”との出会い。たった36分の濃密な時間を、是非とも味わってみてはいかがだろうか。
文/久保田 和馬
