『隣人たち』デザイナーが語るアン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステインの衣装に込められた想い。ヒッチコック作品の影響も?

『隣人たち』デザイナーが語るアン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステインの衣装に込められた想い。ヒッチコック作品の影響も?

アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステインという二大オスカー女優共演による、疑念と妄想が渦巻くサイコ・スリラー『隣人たち』(7月24日公開)。本作は、ベルギーのアカデミー賞マグリット賞で、監督賞や作品賞含む史上最多の9部門を受賞した珠玉の作品『母親たち』(18)のリメイク作品となる。このたび、本作の衣装デザイナー、ミッチェル・トラバーズが、『オーシャンズ8』(18)以来のタッグとなったハサウェイや、チャステインとの共同創作過程と、アルフレッド・ヒッチコック映画に影響を受けた衣装やキャラクター造形について語った。

【写真を見る】『隣人たち』でアン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステインが着こなす華麗な衣装のデザイン画
【写真を見る】『隣人たち』でアン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステインが着こなす華麗な衣装のデザイン画[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

1960年代アメリカで、大都市郊外の隣同士の家に住む親友のセリーヌ(ハサウェイ)とアリス(チャステイン)。お互いに裕福な家庭で、同い年の1人息子を持つ2人は、完璧で幸せな生活を送っていた。しかしある日、セリーヌの息子が不幸な事故に遭ったことで関係性は一変。喪失感に苦しむセリーヌは、次第にアリスの息子テオに心を通わせるようになっていく。その様子に疑念を持ち始めるアリス。彼女は私の家族を奪おうとしているのか?それともただの思い違いか。徐々にアリスの行動はエスカレートしていき、やがて2人は狂気と妄想の渦に飲み込まれていく。

裕福は家で理想的な生活を送っていたセリーヌ(アン・ハサウェイ)
裕福は家で理想的な生活を送っていたセリーヌ(アン・ハサウェイ)[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

セリーヌについて、トラバーズはハサウェイと信頼関係のもと、多くの対話を重ねたと振り返る。「彼女はすべてを考え抜いてコントロールしている女性です。だからこそ、その完璧な世界にどのようにヒビが入り、少しずつ崩れていくのかを表現するのが楽しかったですね」としたうえで「セリーヌは、生き抜くためにある種のダークな領域まで踏み込まなければならない人物です。アン自身も明確なイメージを持っていて、ビジュアルやアイデアについてじっくり話し合いました」と明かす。

完璧な家庭、完璧な子育て、完璧な人生を体現する女性としてデザインされた、セリーヌの“白いフェンスに囲まれた理想的な郊外生活を送る世界”は、家具や車、インテリアの色彩から衣装、グローブ、シューズ、帽子に至るまで緻密に統一されているそう。

特に印象的だったのは、セリーヌが隣人のアリスの息子と庭で過ごすシーンだという。「彼女のもろさが最も表れる場面でした。そこで選んだのがスリップドレスです。完璧な装いから最初の1歩を踏み外したような状態が、彼女のその後の運命を象徴していると思いました」と述懐。また、1960年代の理想的な母親像を表現するうえで、大きなインスピレーションとなったのがジャクリーン・ケネディだった。「完璧なシルエット、帽子の被り方、仕立ての美しさ。セリーヌには、当時の"理想の女性像"を強く意識しています」。

セリーヌの行動に疑念を感じていくアリス(ジェシカ・チャステイン)
セリーヌの行動に疑念を感じていくアリス(ジェシカ・チャステイン)[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

一方、チャステイン演じるアリスは、セリーヌとは対照的なアプローチで作り上げられた。「ジェシカとも以前にも仕事をしていましたし、今回はたくさん話をする時間がありました。彼女が望んでいたのは、もっと自由で、完璧ではない女性像でした。アリスはおそらく大都市からこの町へ引っ越してきた女性で、少し息苦しさを感じながらも、自分自身を表現し続けようとしている人物です」とコメント。
アリスは伝統的な母親像に縛られず、自分らしさを模索する女性として描かれる。そのため、衣装には個性的なプリントや表現力豊かなデザイン、実験的でアーティスティックな要素を取り入れたという。

伝統的な母親像に縛られない、自分らしさを模索する女性として描かれるアリス
伝統的な母親像に縛られない、自分らしさを模索する女性として描かれるアリス[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

チャステインからは、衣装そのものよりもヘアスタイルに関するアイデアが寄せられたという。「彼女が提案したのは、少しバービー人形を思わせるような柔らかなポニーテールでした。ジャクリーン・ケネディほど堅苦しくなく、当時らしい完璧さと軽やかさを両立させたスタイルです」。また、劇中で使用したリネン素材についても思い出深いエピソードを明かす。「リネンはどうしてもシワが寄るので扱いが難しい素材なんです。でも、夏が舞台であることや、"完璧になろうとしてもなりきれない"アリスの人物像を表現するうえで、とても効果的でした。ジェシカとはそのことをよく笑いながら話していましたね」。

アリスとセリーヌの違いは、色彩だけでなくシルエットや素材選びにも表れている。「まったく異なるアプローチです。当時はAラインからよりシックなシルエットへ移行する時代でした。アリスが最初に着るコートは風によって表情を変えるデザインですが、セリーヌのコートはどんな風が吹いてもシルエットが崩れません。その違いが2人の性格そのものを映しています」。

『青いパパイヤの香り』(93)、『博士と彼女のセオリー』(14)など国際的な撮影監督として活躍し、長編映画監督デビュー作となる本作では、撮影監督も務めるブノワ・ドゥロームとの仕事については、「色彩と質感を通して感情を描く作業だった」と語る。「彼にとって感情は色や素材、その組み合わせによって表現されるものなんです。だから衣装作りも非常に刺激的でした」。

素材までこだわりぬかれている衣装
素材までこだわりぬかれている衣装[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

衣装デザインにおいては、ヒッチコック作品からも大きな影響を受けた。「ヒッチコック作品はすべて観ました。特に登場する女性たちが学校や教会、裏庭といった日常空間でどのように振る舞い、衣装がどう動くのかを参考にしています。なかでも『鳥』は重要なインスピレーション源だったことを明かし、「『鳥』のアイコニックな女性像には強く影響を受けました」と述べる。

ヒッチコック作品を思わせるモスグリーンのスーツをドゥローム監督に提案した際には、「最高だよ」と即答されたという。「僕たち自身、この作品にはどこかヒッチコック的な空気があると感じていました。だから大胆な色使いも歓迎してくれました」。さらに、ネクタリンオレンジの鮮やかなリネン衣装について相談した際も、「柔らかな色彩の空間を刃のように切り裂く存在になる」と評価されたと振り返る。

非常にせつない息子の葬儀のシーン
非常にせつない息子の葬儀のシーン[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

最後に、日本の観客に注目してほしい衣装について尋ねると、トラバーズはセリーヌの葬儀シーンのヴェールと、アリスのジャンプスーツを挙げた。「セリーヌのヴェールは、アンと一緒に数え切れないほどのレースを見比べながら作り上げました。目元がどの程度見えるか、どこまでミステリアスに見せるか、そして怖くなりすぎないバランスを徹底的に追求しています」。

一方のアリスについては、「白をベースにセルリアンブルーやアップルグリーンを取り入れたジャンプスーツが印象的。少し大胆な色彩ですが、本作が持つメロドラマ的な魅力を象徴する衣装でもあります。また、アリスが着こなすシガレットパンツなどのパンツルックも、彼女らしさを表現する重要なスタイリングになっています」と言及している。


『隣人たち』は7月24日(金)より公開
『隣人たち』は7月24日(金)より公開[c] 2023 MINSTINCT INC. ALL RIGHTS RESERVED.

『TITANE/チタン』(21)、『落下の解剖学』(23)などのエッジの効いた作品を輩出する新進気鋭の映画製作、配給会社NEONが北米配給権を獲得した本作。こだわりのカメラワークと映像美が魅力的な映画に仕上がっているので、ぜひ大スクリーンでご覧いただきたい。

文/山崎伸子

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