“恐怖の帝王”も称賛するマイク・フラナガンという才気…キング原作映画『サンキュー、チャック』などで描く人間が“輝き”を放つ瞬間
過去と現在を交錯させ、主人公の内面に迫るマイク・フラナガンの演出
「ドクター・スリープ」はキングの代表作「シャイニング」の続編で、ユアン・マクレガー主演で2019年に映画化されたのだが、期待されたほどのヒット作にはならなかった。だが、キングが不満を抱いていたスタンリー・キューブリック監督による『シャイニング』(80)のフッテージをあえて使い、オーバールック・ホテルでの惨劇を生き延びたダニー少年が大人になり、過去のトラウマに向き合う姿が丁寧に描かれていた。
映画『ドクター・スリープ』を観て、キングは自身が「黒歴史」認定していたキューブリック版『シャイニング』に対するわだかまりを解消できたのではないだろうか。映画化された『ドクター・スリープ』は、キング派とキューブリック派のどちらも納得できる内容だったのだ。
フラナガン監督はキングとの初タッグとなった『ジェラルドのゲーム』(17)でも、過去と現在を交錯させながら、主人公の内面に迫る演出を展開した。記憶のなかの自己との対話が、フラナガン作品に共通するテーマだと言えるだろう。
生きることの喜びとそれを失うことの恐怖を同じ比重で描写
ジャンプスケア(恐怖演出)に頼らず、派手な効果音も使わない。主人公たちの心情をきっちりと描くことで、生きることの喜びとそれを失うことの恐怖をじわじわと炙りだしていくのがフラナガン演出の真骨頂だ。生きる喜びと恐怖を同じ比重で描いているところも、彼の作品の特徴となっている。
人間が持つ特別な才能のことをキングは“シャイニング”と呼んだわけだが、『サンキュー、チャック』でも人間が“輝き”を放つ瞬間が映しだされる。ヒドルストンや子役のベンジャミン・パジャックが踊りに熱中するシーンは、まさに人生の“輝き”そのものであり、生きることの喜びを凝縮した名場面となっている。キングファンにとっては、『スタンド・バイ・ミー』の少年たちが焚き火を囲むシーン、『ショーシャンクの空に』の刑務所の屋根でビールを飲むシーンと同様に、忘れられないものになるはずだ。
キング原作の非ホラー系映画が好きな人は、きっと『サンキュー、チャック』にもハマるだろう。そして、映画を観終わったあとに「サンキュー、キング」と口にするに違いない。
文/長野辰次
