『PILOT ー人生のリフライトー』が韓国で大ヒット!『建築学概論』「賢い医師生活」など“千の顔を持つ男”チョ・ジョンソクの魅力を紐解く

コラム

『PILOT ー人生のリフライトー』が韓国で大ヒット!『建築学概論』「賢い医師生活」など“千の顔を持つ男”チョ・ジョンソクの魅力を紐解く

陽気な肝胆膵外科助教授を好演した「賢い医師生活」

「賢い医師生活」では非の打ち所がない愛されキャラのイクジュンを演じた
「賢い医師生活」では非の打ち所がない愛されキャラのイクジュンを演じた[c]Everett Collection/AFLO

PILOT ー人生のリフライトー』では若干際どいギャグも織り交ぜられているが、それをチョ・ジョンソク持ち前のギャグセンスと自然さで乗り切っている。そうした彼の等身大のよさに支えられた作品の1つが、「賢い医師生活」だ。総合医療を司るユルジェ病院を舞台に、医大生時代から20年に渡る友人同士である5人の医師の日常を描いている。チョ・ジョンソクが演じたイクジュンは、肝胆膵外科助教授であり、離婚後、ひとり息子のウジュを育てるシングルファーザーでもある。初登場は、愛息子が接着剤を塗りたくったダース・ベイダーのヘルメットを被ってしまったイクジュンが、ユルジェ病院へやってきて滑稽な姿を晒すシーンだった。ひょんなことから重要な手術を任されてしまい、ヘルメットのまま難なく患者を救うイクジュンは、笑いを誘いながらも誠実で温かみのある人物であると分かる。そして同時に、よくある医療現場の緊迫感あふれるドラマではなく、医師たちの日常と、彼らが患者やその家族に対し真摯に向き合うさまを丁寧に紡ぐ本シリーズの本質を、このシーンのイクジュンが体現していると言ってもよいだろう。

いまだにパロディされる名シーンを生みだした『建築学概論』

チョ・ジョンソクは会話シーンでの間合いの取り方が絶妙に上手く、また明確な発声ゆえにセリフのテンポがよい。もともとソウル芸術大学に通っていた頃、教授からミュージカル出演を勧められて演技に興味を抱き、2004年に「くるみ割り人形」の脇役を演じたことが芸能界への足がかりとなった。映画やドラマで活躍する傍ら、いまなお舞台に立つ生粋のミュージカル俳優でもあるのだ。

チョ・ジョンソクのチャームポイントである、ミュージカル仕込みのセリフ回しのよさがコメディリリーフとして機能し、彼をスターダムへと押し上げた作品が『建築学概論』(12)だった。学生時代に、建築学概論の授業で出会ったスンミン(イ・ジェフン)とソヨン(スジ)の初恋の記憶を描く本作。物語は15年後に再会した2人の過去と現在を行き来しながら進んでいくが、チョ・ジョンソクはスンミンの学生時代のシークエンスで登場する、彼の親友ナプトゥクに扮している。ナプトゥクは15年後の場面では姿を見せない助演に過ぎないのだが、恋に奥手なスンミンに、おそらく自分も経験がない熱いキスのやり方を指導するなど抱腹絶倒な恋愛指南で観客の心を鷲づかみにした。言い放った名ゼリフ「ナプトゥクが納得(ナプトゥク)しないぜ!」は一大ミームとなり、それをきっかけにチョ・ジョンソクの顔も広く知れ渡ったのだった。

少女時代ユナとコミカルな脱出劇を繰り広げた『EXIT』

有毒ガスの脅威から逃げ惑う無職の青年をユーモラスに好演『EXIT』
有毒ガスの脅威から逃げ惑う無職の青年をユーモラスに好演『EXIT』[c]Everett Collection/AFLO

ヒットメーカーに愛されるのはやはりスターの星の下にいるということなのかもしれない。韓国公開当時942万人を動員した『EXIT』(18)にも、チョ・ジョンソクは主演の1人、ヨンナムとして名を連ねている。山岳部の活動に青春を燃やした青年ヨンナムは、母の古希のお祝い会で訪れた都心の高層レストランで、大学時代にあっけなくフラれた後輩ウィジュ(イム・ユナ)と再会する。しかし時を同じくして、地上近くでは謎の有毒ガスが散布される事件が発生し、ヨンナムたちに危険が迫っていく。いまや無職でうだつの上がらない毎日を送る二枚目半の青年に自然と徹し、かつどこか可愛げのあるキャラクターに仕上げることができるのも、チョ・ジョンソクの魅力だろう。いわゆる“社会の負け組”だったヨンナムが、生死の狭間で恐怖のどん底にありながらウィジュと協力して懸命にサバイブしていく展開は、手に汗を握るとともに感動的ですらある。

天才観相師と共に運命を変えようと奔走する男に扮した『観相師 かんそうし』

今年2月に韓国で公開され、実際の政権抗争、癸酉靖難を題材にした『王と生きる男(原題:왕과 사는 남자)』が異例の大ヒットを記録したことにより、同時代を別の視点で捉えた『観相師 かんそうし』(13)が再びスポットを浴びている。この映画でチョ・ジョンソクが演じたキャラクターもぜひ紹介したい。人相でその人の性格や過去、未来を占う観相師ネギョン(ソン・ガンホ)とその義弟ペンホンは、都でひと旗上げようと観相業を始める。ある日、ネギョンの腕前を見込んだ宮廷の高官ジョンソに請われて宮中の要職に就くが、11歳にして王位についた端宗の叔父、首陽大君(イ・ジョンジェ)の顔に“逆賊”の相を発見してしまう。チョ・ジョンソク扮するペンホンは、義兄と違い「観相ではなく、人の心を読む」ことを信条とし、甥を誰よりも愛する人物だ。口が達者な彼はネギョンと小気味よいかけ合いを見せて映画の前半を笑いで満たしてくれるが、その口が災いし、癸酉靖難の勃発と共に取り返しのつかない悲劇を招いてしまう。心優しいペンホンが自身を罰するために取った手段は、あまりにも痛ましかった。しかし、時代に翻弄されて大きな傷を負いながらも誠実に懸命に生きようとするキャラクターに、心を震わせられた記憶がいまも残っている。

その高い演技力から、“千の顔を持つ男”とも呼ばれるチョ・ジョンソク。そんな彼が人生どん底の元スターパイロットが“女装機長”として再起を図る姿をコミカルに演じた『PILOT ー人生のリフライトー』で見せる演技の多様性をぜひスクリーンで目撃してほしい。


文/荒井南


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