60年代女の子映画の決定版…チェコの名作『ひなぎく』に込められた“カワイイ!”と自由への想い

60年代女の子映画の決定版…チェコの名作『ひなぎく』に込められた“カワイイ!”と自由への想い

第二次世界大戦が終わって、ソビエト連邦の衛星国家とされてしまったチェコスロバキア。米ソ対立=東西冷戦が激化するなかで、共産党による独裁体制が敷かれ、表現の自由も強く制限された。そして1960年代後半、吹き始めた自由の風のなかでそよいだ、一輪の花。それが映画『ひなぎく』(66)である。

“チェコ・ヌーヴェルヴァーグ”の担い手、ヴェラ・ヒティロヴァー監督

本作を生みだしたのは、女性監督のヴェラ・ヒティロヴァー(1929~2014)。哲学と建築学を学んだあと、工業製図者、ファッションモデル、デザイナーなどを経て、撮影所入り。脚本家、俳優、助監督として働き始める。

その後、首都プラハのフィルム・アカデミーで演出を学び、監督としてデビュー。アカデミー同期のイジー・メンツェルやエヴァルト・ショルムらと共に、“チェコ・ヌーヴェルヴァーグ”の担い手の1人となった。

マリエを名乗る2人の女性が主人公
マリエを名乗る2人の女性が主人公[c] Czech audiovisual fund, source: NFA

2人のマリエが自由奔放に振る舞う、あってないようなストーリー

『ひなぎく』の主役は、マリエを名乗る女性2人。マリエ1はツインテール。マリエ2は“ひなぎく”の花冠を被っている。2人は姉妹と偽り、男たちを騙しては食事を奢らせた挙げ句、変な笑い声を上げながら逃げだす。時には高級レストランで酔っ払って大騒ぎ。ほかの客にちょっかいを出すなど、悪ふざけをする。忍び込んだ宴会場では、ご馳走を食い散らかしたのち、ハイヒールで料理を踏みつけてメチャクチャにする。

高級レストランでは酔っ払って大騒ぎ
高級レストランでは酔っ払って大騒ぎ[c] Czech audiovisual fund, source: NFA

部屋に戻ると、牛乳風呂。紙を燃やし、ソーセージを炙って食べる。グラビアやベッドのシーツを切り刻んだあと、ついにはお互いの身体をちょん切りだす。そして画面全体も、小間切れとなる…。

こうした、あってないようなストーリーが、前衛的な映画テクニックを駆使しながら展開されていく。カラーとモノクロ、赤や緑の色ずれやフィルムへの着色などで生みだしたサイケデリックな色彩。実験的な効果音に、時間軸を無視したカット割りと編集は登場人物がまるで瞬間移動したようだ。

あってないようなストーリーが前衛的な映画テクニックを駆使しながら展開されていく
あってないようなストーリーが前衛的な映画テクニックを駆使しながら展開されていく[c] Czech audiovisual fund, source: NFA

マリエ1&2をはじめ素人をキャスティング

2人のマリエを演じたのは、まったくの素人だった。マリエ1役のイトカ・ツェルホヴァーは当時学生。社会主義国ならではの、首都プラハに全国の若者が集まるイベントに参加した際、ヒティロヴァーたちが配布したビラを見てオーディションに参加し、選ばれた。

学生だったマリエ1役のイトカ・ツェルホヴァー
学生だったマリエ1役のイトカ・ツェルホヴァー[c] Czech audiovisual fund, source: NFA

マリエ2のイヴァナ・カルバノヴァーは、帽子店勤務。何度オーディションをしても、イメージに合う女優が見つからず、困り果てた時に、監督が映画館でおしゃべりをしているカルバノヴァーの声を気に入って、キャスティングした。

帽子店に勤務していたマリエ2のイヴァナ・カルバノヴァー
帽子店に勤務していたマリエ2のイヴァナ・カルバノヴァー[c] Czech audiovisual fund, source: NFA

厳しく容赦がない監督として知られたヒティロヴァーは、現場で怒鳴ったりするのが当たり前。しかし2人のマリエへの指示が、「みんなの邪魔をして」だけだったこともあったという。ちなみに本作は、2人のマリエ以外の役に関しても、作曲家や衣装デザイナーなど、ほとんどをプロではない者が演じている。

「カワイイ!」のひと言に尽きるマリエのファッションや部屋のインテリア

ヒティロヴァーと共に『ひなぎく』を生みだす大きな役割を果たしたのが、美術、衣装、共同脚本を手掛けたエステル・クルンバホヴァー。まるで着せ替え人形のように変わる、2人のマリエのファッションや部屋のインテリアなどは、「カワイイ!」のひと言である。製作から60年経ったいまとなっても、まったく古びていない。クルンバホヴァー曰く、衣装とは単なる衣服のことではなく“出来事”なのだという。

撮影を手掛けたのは、ヒティロヴァー監督の私生活のパートナーでもあったヤロスラフ・クチェラ。彼によると本作の撮影が理想的だったのは、映画のルックを決めるために製作初期から、ヒティロヴァーと美術のクルンバホヴァー、そしてカメラマンのクチュラの3者の間で話し合いが行われたこと。これによって監督の一存ではなく、3つの才能で映画の方向性を決めていくこととなった。

“チェコ・ヌーヴェルヴァーグ”を象徴する『ひなぎく』を解説
“チェコ・ヌーヴェルヴァーグ”を象徴する『ひなぎく』を解説[c] Czech audiovisual fund, source: NFA


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