『ハムネット』『ザ・ブライド!』に立て続けに出演!アカデミー賞受賞に期待がかかるジェシー・バックリーの輝かしいキャリア
女性の感情を多彩な演技でスクリーンに表現!
なかでも実力派として世間に認知されることになった1作が、主人公レダ(オリヴィア・コールマン)の若かりし日を演じたマギー・ギレンホール監督の『ロスト・ドーター』(21)だ。本作では、母親業に対する孤独や混乱、子育てへの義務感と自分の時間を過ごしたいという欲望との乖離に翻弄される女性の感情を生々しく浮かび上がらせ、第94回アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされた。
自身の代表作となった本作をはじめ、近年は「女性が社会で生きていくということ」にフォーカスした作品に立て続けに出演してきたバックリー。『彼女たちの革命前夜』(19)では、「ミス・ワールド」の開催を阻止しようと戦うエネルギッシュな女性解放運動の活動家ジョーを生き生きとチャーミングに表現。
2022年の主演作『MEN 同じ顔の男たち』では、夫の死を目撃したトラウマを癒すため、田舎へと足を運んだ主人公に扮し、その先々で出会う同じ顔をした男性たちに苦しめられ、追い込まれていく疲弊や軽蔑、それに立ち向かう怒りなど様々な感情が入り混じった表情で、寓話的な物語に説得力を与えた。
さらに宗教に縛れられた閉鎖的な村で行われていたレイプの真相を知った被害者女性たちの実話を基に、未来のために話し合うという選択の過程を描いた『ウーマン・トーキング 私たちの選択』(22)では、尊厳を奪われてきたことへの怒りがにじみ出た言葉を放ち、作品のテーマ、メッセージを体現した。
振り切った演技で名作に新たな色を加えた『ザ・ブライド!』
サラ・ポーリー、フィリッパ・ロウソープといった女性監督との仕事が続いているバックリー。『フランケンシュタインの花嫁』(35)を現代的な解釈でリメイクした『ザ・ブライド!』では、『ロスト・ドーター』の監督マギー・ギレンホールと再びタッグを組んでいる。
1930年代のシカゴ。孤独な怪物フランク(クリスチャン・ベール)から伴侶が欲しいと頼まれたユーフォロニウス博士(アネット・ベニング)は、墓から掘り起こした若い女性をブライド(バックリー)として甦らせる。
殺人や過激な文化活動を通じて愛を築いていく2人はお尋ね者となるが、自分を葬った不条理な世界に怒りをぶつけるブライドの姿は、やがて抑圧された人々を奮い立たせ、社会を揺るがしていく。
1937年版では“花嫁”という役割だけでほとんど出番がなかったが、本作では主体性が与えられ、感情を露わにし破壊の限りを尽くすパンキッシュなキャラクターとしてバックリーが熱演。「激しさの隣に深い脆さがあり、理知的で非合理的、セクシーで時に醜い。彼女が女優として突出しているのは、そのすべての要素を作品に落とし込めるところ」とギレンホールが全幅の信頼を寄せ、共演のベールも「暴走しかねない危うさがある。これ以上求めるものはないほど最高でした」と語るような振り切った演技を見せており、これまでとは異なる印象を与えてくれそうだ。
圧巻の演技でオスカーにノミネートされた『ハムネット』
さらにクロエ・ジャオ監督との初タッグによる『ハムネット』では、ゴールデン・グローブ賞や英国アカデミー賞、クリティクス・チョイス・アワードなどの賞を総なめにし、アカデミー賞の主演女優賞にもノミネート。
世界最高の劇作家であるウィリアム・シェイクスピアとはどんな人間だったのか?名作「ハムレット」の誕生秘話を妻の目を通してフィクションを交えながら描き、英女性小説賞、全米批評家協会賞を受賞したマギー・オファーレルの同名小説を映画化した本作。
16世紀のイギリス。小さな村で暮らす貧しいラテン語教師のウィリアム・シェイクスピア(ポール・メスカル)は、森を愛する自由奔放なアグネス(バックリー)と出会う。互いに惹かれ合い、情熱的な恋愛の末に3人の子を授かるが、やがてウィリアムはロンドンで演劇のキャリアを模索していく。アグネスは一人で家庭を支えていたが、そんな最中、11歳の息子ハムネットが命を落としてしまい…。
森を愛し、薬草の知識に優れ、不思議な力を宿したアグネスというキャラクター像を、堅実さと同時に野生的で妖気がある不可思議な雰囲気を漂わせながら演じているバックリー。計り知れないほどの深い悲しみと絶望を経験する女性の感情を表現するために、極限まで自分を追い込んだそうで、また一歩、女優としてステップアップした演技は必見だ。
確かな演技力と作品選びで類稀なるキャリアを築いてきたジェシー・バックリー。オスカーを手にすることができようが、できなかろうが、現代を代表する実力派であることは、その演技を見れば一目瞭然だ。
文/サンクレイオ翼
