公開時は賛否両論!?押井守監督が愛する、映画『メッセージ』における“SFの快感原則”【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」第5回前編】

公開時は賛否両論!?押井守監督が愛する、映画『メッセージ』における“SFの快感原則”【押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」第5回前編】

「凝ったデザインがなくても、ちゃんとSFができる」

――そういう言葉は確かにひどいですが、押井さんがよくおっしゃっている映画的な教養が必要な作品だとは思いますよ。

「そうです。初めて『スター・ウォーズ』(77)や『エイリアン』(79)を観た時、『オレはこれが観たかったんだ!』って思ったわけですよ。グレーチングの通路にツナギ、そしてバスケットシューズ。銀ピカの宇宙服じゃなく、まさに貨物船の職員という服装だった。ご飯の時はバカ話に花が咲き、洗面所にはプレイボーイの写真がピンナップされている。『スター・ウォーズ』だってB-29の回転銃座みたいのが出てきて『これこれ!』と思ったからね」

『スター・ウォーズ』(77)よりミレニアム・ファルコン号の船内
『スター・ウォーズ』(77)よりミレニアム・ファルコン号の船内[c]EVERETT/AFLO

――ミレニアム・ファルコン号ですね!『スター・ウォーズ』は使用感がよかった。ファルコン号もX-ウィングも汚れていて百戦錬磨な感じ。ああいう表現はなかったですから。

「そうそう。それまでは未来=ピッカピッカ。でも、その手のSF映画が登場して、やっと現実との地続き感が出てきた。そのピークが『ブレードランナー』(82)だよ。私は最初に劇場で観た時『ああ、オレは、こういう映画を観たくてずっとSF者をやっていたんだ』と思い、『オレの監督としての方向性はこれで決まった!』と、一緒に観た某社のプロデューサーと大コーフンして居酒屋でまくし立てていた。雨が降っているなか、屋台の前で新聞を読みながら順番を待っている主人公。店主と『二つで十分ですよ。わかってくださいよ』という会話をしていたら突然、スピナーが降りてくる。その世界観の提示の仕方が本当にかっこいい。シビれますよ」

――わかります!

「じゃあ、なぜそういうふうに思えたかというと、それまでチープなSF映画を山のように観てきたから。宇宙船がくるくる回りながら降りてきて、リトルグリーンマンみたいな宇宙人が現れるというようなB級、C級SFを観続けていたからこそ、『ブレードランナー』や『エイリアン』のすごさ、新しさがわかる。初めて観たSFが『ブレードランナー』や『エイリアン』だったら、そんな違いがわからない。積み重ねがないとすごさに気づかないんだよ」

押井守流のSF論を語る!
押井守流のSF論を語る!

――そう思います!

「『メッセージ』の柿の種のようなシンプルな宇宙船がかっこいいと思うのもそういう積み重ねがあるから。『デューン』も長方形のシンプルな宇宙船だったでしょ?そのシンプルさでちゃんと宇宙船を表現出来ているのは質感だけで勝負できる時代になったということ。凝ったデザインなどなくてもちゃんとSFを出来るようになったんです。そういうところがSFのもっている独自の快感。快感原則なんだよ。私はそういう快感をずっと映画を観ながら繰り返し求めているわけだけど、今回の『メッセージ』はまさにそんな1本であり、なおかつ、それ以上の驚きがあった」

――ということは、SFとしてすばらしかっただけじゃなかった?

「そうです。単にすげえSFだというんじゃなくて映画としてもすげえと思ったんですよ。映画の仕掛けとしてすごいなと。つまり、さっき言った、“時間の流れは過去も現世も未来も同じようにある”というSF的な世界観を、編集というテクニックをつかって見事にビジュアル化しているということ。テーマに沿って編集を成立させたこと自体、極めて映画的な理解の仕方。映画としてこの物語を成立させるには通常の時間の流れを編集で入れ替えるしかないんです。つまり、映画がもっているその本質的ともいえるテクニックを見事にテーマに活かしているので感心しまくったんだよ。まあ、それが一般の人からすると『ふざけるな』になったようなんだけどさ。この映画は本当に編集がすばらしい」

この円形文字が指す意味とは?
この円形文字が指す意味とは?[c]EVERETT/AFLO

――『メッセージ』はアカデミー賞作品賞、ヴィルヌーヴの監督賞を筆頭に8部門でノミネートされていて、受賞したのは音響賞のみです。編集賞、脚色賞もノミネートされました。

「音響もすばらしいけど、やっぱり編集賞。アダプテーションがいいという麻紀さんは脚色賞?」

――私は脚色賞ですね。ヴィルヌーヴに、その前の作品『複製された男』(14)でインタビューした時に丁度、「あなたの人生の物語」を映画化するというニュースが流れたので、映画にはもっとも向かない物語をどうやって映像化するつもりなのか訊いたんですよ。こう言ってました「『灼熱の魂』(10)のあと、ハリウッドからたくさんのオファーを受けたんだけど、そのなかでもっとも原作がおもしろかったテッド・チャンの小説の映画化を選んだ。確かに映画化には向かない話だから私も悩んだんだが、しばらく経って送られてきた脚本を読んで、これなら映画化出来ると思ったんだ」。私はエリック・ハイセラーのこの脚本、Netflixの『三体』に匹敵するすばらしいアダプテーションだと思いました。ちなみに、一部の人が「ふざけるな」といったという中国軍の将校への電話なんてのは原作にはない…というか、そもそも、ああいう一触即発のハラハラはまるでない。「未来を知る」ということを映画的に表現しているんです。

「もちろん、そういう脚本のすばらしさはある。でもさ、その中国との緊張関係が勃発するとテンポが変わるじゃないの。それまでと同じじゃなく、ちゃんとハラハラ出来るテンポが刻まれている。そういうのは編集の力であり、監督のセンスなんですよ」

独特のムードを生みだす美術にも注目したい
独特のムードを生みだす美術にも注目したい[c]EVERETT/AFLO

――それもよくわかります。

「そういう映画って、実はありそうでない。私が知る限りでは『メッセージ』以降、ないんじゃないの?同じ監督の『デューン』も大好きだしSFとしてもすばらしいとは思うけれど、映画としての評価はまた別。映画として言えば古典的で、壮大な砂漠シーンは『アラビアのロレンス』(62)と比べるとスケール感で落ちる。もちろん、すごいんだけどね。ジョン・ウィック(『ジョン・ウィック:パラベラム』)の砂漠なんて裏庭で撮った?というショボさに比べたらすばらしいけどさ」


――いや押井さん、まだ『メッセージ』の“裏切り”がどこにあるのかまで到達してないんですけど…。

「だから、ひと言でいえば、裏切りが映画の本質的な力になるということを証明したような映画、ということですよ」

――それはこれまでとは違う“裏切り”ですね。詳しいことは次回でお願いします!

取材・文/渡辺麻紀

押井守連載「裏切り映画の愉しみ方」
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