サイコで禍々しくも美しい…独特の作品を生みだす名匠プピ・アヴァティ監督のイタリアンホラーでの功績
BFI(英国映画協会)が2013年に発表した「イタリアン・ゴシック・ホラーの傑作10選」にも選ばれるなど、イタリアンカルトホラーとして知られる『笑む窓のある家』と『ZEDER/死霊の復活祭』。共に先日日本で初公開されたこれらの作品を手掛けたのが、プピ・アヴァティ監督だ。
名作の裏側にアヴァティの活躍あり!
1938年生まれの現在87歳というアヴァティ監督は、もともとジャズミュージシャンを目指していたものの、フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』(62)を観て、映画の道を志し、1970年にイタリアで公開された『Balsamus, l'uomo di Satana(原題)』で監督デビュー。50年以上におよぶキャリアでは、青春映画からホームドラマ、ホラーまで多彩な題材を手掛けてきた。近年はダンテ・アリギエーリの伝記を描いた『ダンテ』(22)など重厚な人間ドラマの印象が強いが、忘れてはいけないのがイタリアンホラーでの功績だ。
『血みどろの入江』(71)などで知られるマリオ・バーヴァをはじめ、『サスペリア』(77)のダリオ・アルジェント、『サンゲリア』(79)のルチオ・フルチ…と名監督が、エロ、グロ、スプラッターなど過激な表現を盛り込んだ作品を連発し、1970年代〜80年代に全盛期を迎えたイタリアンホラー。
アヴァティは、稀代の詐欺師と言われるイタリアのカリオストロ伯爵を題材にしたデビュー作『Balsamus, l'uomo di Satana(原題)』や『Thomas e gli indemoniati(原題)』(70)といったホラー(コメディ)をキャリア初期から手掛けたほか、ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の問題作とされる『ソドムの市』(75)ではクレジットなしで脚本に協力。真偽は定かではないが、アルジェントの『サスペリアPART2』(75)にも関わったという話もあるなど、ホラー、サスペンス界隈からキャリアをスタートさせている。
さらにマリオ・バーヴァの息子で「デモンズ」シリーズで知られるランベルト・バーヴァのデビュー作『首だけの情事』(80)では共同脚本を手掛け、ランベルトのキャリアをあと押しするなど、イタリアンホラー界に欠かせない存在として密かに活躍していた。
不気味すぎる家が登場する田舎サイコホラー『笑む窓のある家』
そんなアヴァティ作品のなかでもカルト的人気を誇るのが、4K修復版が公開中の『笑む窓のある家』だ。1976年の初公開時にはあまり注目されず、知る人ぞ知る作品だったものの、再評価が進み、イーライ・ロス監督が絶賛するなど近年ではカルト作品として名高い。
ボローニャ出身のアヴァティ監督にもなじみのある、1950年代のイタリア北部エミリア=ロマーニャ州の田舎町を舞台に、教会内のフレスコ画の修復にやって来た絵画修復師が、町の暗部に触れ、恐怖に見舞われるというサイコホラーだ。
町の観光資源として期待されるフレスコ画の修復を請け負ったステファノ(リノ・カポリッキオ)。彼が教会で見たのは、“死に際を描く画家”と称され、20年前に狂死した画家レニャーニが描いた不気味な壁画だった。修復を拒む何者からの謎の脅迫電話など、怪しい出来事に見舞われるなか、壁画について密かに調査していた友人のアントニオ(ジュリオ・ピッツィラーニ)が殺される事件が発生。その謎を解くため、ステファノは亡き友が生前口にしていた笑む窓のある家へ足を運ぶが…。
緑豊かな田園地帯の牧歌的な風景と裏腹に、「笑む窓のある家」という蠱惑的なタイトルそのままのインパクト抜群の家、ナイフを刺された男が苦しむ壁画など、常に禍々しい雰囲気を漂わせており、美しくもゾクゾクとした感覚を覚える本作。その不気味な映像の奥には、人間の本性が容赦なく描かれており、人間の悲喜こもごもというアヴァティ監督のヒューマンドラマにも通じる作家性を感じることができる。

