SNSや小説と連携を取り“読み解き”を促す『ナイトフラワー』花言葉や娘が弾くクラシックが示唆する作品全体の象徴性

SNSや小説と連携を取り“読み解き”を促す『ナイトフラワー』花言葉や娘が弾くクラシックが示唆する作品全体の象徴性

公開されて1週間あまりが経った内田英治監督の『ナイトフラワー』(原案、脚本も兼任)。先日は第50回報知映画賞にて主演の北川景子、助演の森田望智がダブル受賞し、スタートダッシュにさらなる弾みがついた形だが、すでに劇場へ足を運んだ方々(リピーター率多め)による作品への“読み解き”がSNSなどを通じて拡散されているのも大きいと思う。そういえば、筆者もまた試写室で観た直後に、偶然ご一緒していた知り合いの編集者さんと歓談するなか、終盤の“企みのシークエンス”を巡ってあれこれと盛り上がったものだ。

内田英治監督自らの原案による“オリジナル脚本”

子ども2人を抱え、明日食べるものにさえ困る生活を送る夏希
子ども2人を抱え、明日食べるものにさえ困る生活を送る夏希[c]2025「ナイトフラワー」製作委員会

北川が演じるのは生活困窮者のシングルマザー、夏希である。昼はパート、夜はスナックで働きながら必死に幼子たちを育ててきたものの限界に。その2人の子どものいま、そして未来のためにやむなく、ドラッグ(錠剤の合成麻薬MDMA)の売人となる。報酬は半々、裏社会を彼女に紹介してボディガードを買って出た、森田扮するワケありの総合格闘家選手、多摩恵とタッグを組んで――。かような基本設定だけで、なかなかにセンセーショナルな題材だとわかるだろう。

ところで内田監督といえば近年、興行のハードルが高くなる“オリジナル脚本”の実写映画を成立させるための一つの方策として、封切りの1〜2か月前にまず自ら執筆した小説版を発売するスタイルを実践している。『ミッドナイトスワン』(20)、『異動辞令は音楽隊!』(22)、『サイレントラブ』(24)、『マッチング』(24)がそうで、『ナイトフラワー』は最新作に当たる。

この方法を、ここまで徹底して試みている監督は珍しく、単独の読み物を提供しつつ結果的に映画版と双方、ディテールを参照し合うことができ、相乗効果を生みだしている模様(3刷目の重版も決まった!)。つまりは「読んでから観るか、観てから読むか」なわけで、仮に各々が描写不足に陥っていたとしてもそこは織り込み済み、事前に“擬似原作体制”を取っていて、『ナイトフラワー』も小説と映画が互いのサイドストーリーを補完するような設計となっているのだ。

【写真を見る】ドラッグの売人を始めた夏希の前に、ボディガードを買って出る女性、多摩恵が現れる
【写真を見る】ドラッグの売人を始めた夏希の前に、ボディガードを買って出る女性、多摩恵が現れる[c]2025「ナイトフラワー」製作委員会

しかも今回は冒頭に記した通り、“読み解き”を促す場面が随所にちりばめられており、初日の舞台挨拶付き上映で観客から投げかけられた質問に内田監督が答え、同コメントを踏まえて後日、宣伝部の公式X(旧Twitter)が、ここぞと考察流行りの時流に寄せ、「映画『ナイトフラワー』の秘密」と称して、すかさず「本編に登場する絵画のそれぞれに監督からの隠されたメッセージが…」と3つのヒントを発信した。いい連携である。


そのヒントが示す一つが冒頭、酩酊状態の夏希が便座に腰掛けている、スナックのトイレの壁の絵だ。アンリ・ルソーが66歳で亡くなる直前、1910年に描いた「夢」。幻想的な画風のジャングル。なぜか置かれたソファには裸婦が横たわっているという、生涯フランスを出なかったルソーの夢想した“楽園”の図。小説版では夏希の奇怪な夢の描写があるのだが、映画はグ〜ンとカメラが上昇して、ドアを開けて外へと向かう行為を捉えて始まり、思わず彼女が口走ったある言葉とあわせ、ラストの展開とは対になっている。

トイレをあとにした夏希は、フラワーカンパニーズの名曲「深夜高速」をカラオケでシャウトする。この歌詞も意味深なのだ。そうして、お客がスナックのママ(内田慈)にプレゼントした花、閉店後に譲り受け取る「一年に一夜しか咲かない」とされるナイトフラワー(月下美人)は家で鉢植えされ、ベランダに置かれ、花言葉も含めて象徴性を帯び、作品全体を貫いてゆく。

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