前田真宏、エヴァ初号機を初画集の表紙にした理由とは?『雑 前田真宏 雑画集』出版&各地の展覧会を経ての想いを語る
『エヴァンゲリオン』シリーズなどでアニメーション監督やアニメーター・デザイナーとして活躍し、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15)ではコンセプトアート&デザインを務めた前田真宏。今年の2月には初にして待望の作品集『雑 前田真宏 雑画集』が発売された。
この画集には、企画初期段階で書かれるイメージスケッチから、ブラッシュアップ過程で生まれる中間成果物、さらには大型画稿まで、可能な限りの素材を収集し未発表のものを含めて総掲載点数100点以上、取り扱い作品数約30作にて、前田のキャリアを網羅・記録した画集となっている。MOVIE WALKER PRESSでは、11月20日より京都での『雑 前田真宏 雑画集』発売記念アート展の開催を記念して貴重なインタビュー取材を敢行!画集の制作に至った経緯からお気に入りの作品、オタクとしてシンパシーを感じると明かす三島由紀夫への愛までを語ってもらった。
「いわゆる“代表作”のような作品が僕にはないんです」
――前田さんの初の画集が出版され、各地のPARCOを中心に展示会とサイン会を行い、大変盛況だったと伺っています。
「最初は、『サイン会、人が来てくれるんだろうか?』と家族にも心配されるくらいだったんですが、蓋を開けるととてもたくさんの方に来場いただき驚いたくらいでした。なかにはすべての会場に来てくださった方も複数いらして、本当にうれしかった」
――そういう“前田推し”のファンは画集を待ち望んでいたんでしょうね。そもそも1990年代から活躍している前田さんが画集を出すのは初めてということが意外ですから。
「そう言われることも多いんですが、いわゆる“代表作”のような作品が僕にはないんです。例えばキャラクターデザインをやっている方だと文字どおり“顔”がある。表紙にも使えるし、画集自体もキャラクターの魅力で引っ張れる。でも、僕の場合はイメージボードだったり絵コンテだったり、コンセプチュアルデザインだったり。中間成果物の場合が多くて、ちゃんとフィニッシュした作品が極端に少ない。しかも、いろんなスタジオや会社と様々な仕事を雑多にしているので権利問題も発生したりして正直、大変だという気持ちが強く、これまで一度も実現しなかったんです。でも、僕が入ったカラーのなかに、『画集を出しましょう!』と言ってくれるスタッフがいて、その人たちのおかげでこうやって実現したんです」
――ということは、タイトルになっている『雑』も、そういうプロセスから生まれた名前なんですね?
「それもあります。でも、タイトルを考えている時、最初に思い出したのが徳間書店の『アニメージュ』に漫画(『遠い海から来たCOO』)を連載していた際の出来事でした。中学生の女の子が『絵が雑で汚い。早くやめてください!』という読者ハガキを送って来たんです。僕は『そうか、そうかもしれないな。確かに僕の仕事、雑なのかもな』って。彼女の言葉が凄くグサっときちゃって、ずっとハガキを持っていたくらい。その記憶がいまでも鮮明に残っていて『雑』という言葉が浮かんできたんです。仕事が“雑”だし“雑多”だし。自分自身の本性がなにかひとつをずっとやり続けるというより、いろいろやりたい“乱雑”タイプだし、“雑念”も多いほうだし…“雑”という言葉でくくれると思ったんです。それこそが“ザッツ・前田真宏”だって(笑)。“雑”を使えば、そういう言い方も出来るじゃないかって。それに“雑”って覚えやすいでしょ?」
「『巌窟王』をやったおかげで、ストーリーを考える時の自分の姿勢のようなものが変わった」
――なるほど!おもしろいですね。そうやって“雑多”にやった作品のなかでもっとも印象に残っているのはどれでしょうか。
「なんだろう…やっぱり(監督をした)『巌窟王』(04)になるかな。いろんな意味で手応えがあったし、自分にとっての新しいチャレンジがたくさんありましたからね。当初やりたかったのはアルフレッド・ベスターのSF小説『虎よ、虎よ!』だったんですが、権利関係で挫折してしまい、だったらそのオリジンであるアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯』、日本では『巌窟王』というタイトルで知られている復讐譚にしようということで動き始めました。僕は“絵”で考えるタイプなんですが、この作品は物語寄り。というのも、デュマの原作は連載小説形式でチャプターごとに引っ張って行く構成だからです。それをしっかり見習って『来週も観たい!』という気持ちになってもらえるような構成にすることにしました。そういう小説におけるリーダビリティ的な感覚に関しては、初めて手応えを感じた作品だと思います。僕自身、(アニメを)“絵”ではなく、ストーリーで考えたのも初めてだったので、とてもチャレンジングな作品になりましたね。
あ、ひとつ、自慢してもいいですか?スケジューリングが上手くいったこともあり、アフレコ時にはすべて絵が揃っていたんです。さらに、音響をやってくださった笠松(広司)さんともう一人のスタッフの方がとても頑張ってくれて、尺に合わせて音楽のアレンジもしてくれた。だから、声優さんがアフレコする時はドラマの全体像が見えた状態。これはとてもいい効果を生んでくれたので、ここでもすごい達成感を味わえましたね」
――達成感のみならず、アニメに対する意識も変わったんですね。
「『巌窟王』をやったおかげで、ストーリーを考える時の自分の姿勢のようなものが変わったと思います。意識が変わって、それはいまでも続いている。もともと、絵のことしか考えないタイプなので、絵が動いていればセリフもいらないだろうというくらい(笑)。でも、それじゃやっぱりだめだし、予算の問題もある。費やしただけのお金を回収することも考えなきゃいけない。監督として俯瞰から作品のすべてを見なければいけなかったので、やっと“アニメ制作”というものの全体像が見えてきた感じでした。でも、逆にいうと『あ、オレってその立ち位置、あまり向いてないんだ』ということも気づかされたんですよ。だから、いまのポジションにいます」
――いまのポジションとは?
「カラーにおけるポジションは、絵を描く人、肩書でいうとアニメーターです。そうしたからといって、監督をもうやらないと決めたわけじゃなく、結局自分の軸足が絵を描くところにあるということです。
授業中、ノートにパラパラ漫画を描いたり、バッハの顔を落書きして、あの広すぎる額に目を増殖させてみたり。中学高校の時のそんないたずら描きがやっぱり自分の本当の愉しみだったから、そこに還って来た感じかなあ。その立ち位置を取り戻したことで、まだまだいろいろ出来そうだという感覚もつかめましたから。それもこれも『巌窟王』をやったからこそです」
前田真宏、初にして待望の作品集『雑 前田真宏 雑画集』の発売を記念したアート展が、〈大垣書店京都ヨドバシ店〉にて開催中。本展限定の画集の特別カバープレゼントや、画集収録作品の特別受注商品、オリジナルグッズなども多数。
この機会に是非、足をお運びください。
会期:2025年11月20日(木)~12月21日(日) 10:00~21:00
場所:大垣書店京都ヨドバシ店
開催内容:複製画展示・オリジナルグッズ販売
【『雑』画集購入者への特別カバープレゼント】(画集購入者:先着で200名お渡し)
詳細はイベントページをご確認ください。
■『雑 前田真宏 雑画集』
価格/6,600円(税込)
判型/A4変形(250mm×210mm)
ページ数/240P(フルカラー)
責任編集/前田真宏
※詳細は特設サイトをご確認ください。
