大胆かつ繊細なキャラデザが動き出す多幸感…高橋渉監督『トリツカレ男』から伝わる、シンエイ動画の貫禄と挑戦
大人も思わず泣けてしまう…高橋監督が描く“誰かのための自己犠牲”
破天荒な主人公とそれを取り巻く個性的なキャラクター、アクションにコメディ、そして軸となるラブストーリー。『トリツカレ男』の魅力を説明するとこういったポイントが挙がってくる。そんな本作を“大人の心にも刺さる”アニメーションへと深化させたのは、「映画クレヨンしんちゃん」を手掛けてきた高橋監督の手腕によるものだと思わずにはいられない。
「映画クレヨンしんちゃん」といえば、ドタバタコメディでありながらおもわず涙してしまう物語性の深さが世代問わず支持され、高橋監督は4作品――ロボット改造されたひろしを軸に父親や家族のあり方を描く『ガチンコ!逆襲のロボと一ちゃん』、夢の世界を舞台に悪夢に苦しむ少女のトラウマに迫った『爆睡!ユメミーワールド大突撃』(16)、しんのすけたちカスカベ防衛隊のカンフーアクション満載でありながら天才と凡才に迫った『爆盛!カンフーボーイズ ~拉麺大乱~』(18)、学園ミステリーをベースに“青春”にフォーカスした『謎メキ!花の天カス学園』(21)――の監督を務めている。
特に長編デビュー作となった『ガチンコ!逆襲のロボと一ちゃん』は、“泣けるPV”が作られるほどシリーズのなかでも“泣けるしんちゃん”として大きな話題を呼んだことは、多くの人がご存じだろう。父親がロボットになるという突飛な設定ながら、『トリツカレ男』にも通じる“誰かのための自己犠牲”が、原作やキャラクターへの高い解像度と敬意と共に描かれ、公開から10年以上経ったいまも名作として語り継がれている。
ちなみに、同作は第18回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞しているが、「映画クレヨンしんちゃん」のメインスタッフでの同賞の受賞は、『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(02)の原恵一監督、『マインド・ゲーム』(04)の湯浅政明監督に次ぐ3人目。原監督や湯浅監督がのちに国内外の賞に輝いた流れもあり、高橋監督はシリーズ出身者のなかで最も今後の活躍が期待されている監督の一人であろう。
こういった高橋監督の作品歴を見ると、ラブロマンスとコメディ、アクションにミュージカルといったあらゆる要素を含み、そして“大人も思わず泣ける”本作にとって、うってつけの監督といえるだろう。一心不乱にペチカを思うジュゼッペの献身。クライマックスへの物語の昇華。巧みな高橋監督の作劇にビジュアルディレクターである荒川眞嗣による、まるで舞台装置のようなライティング演出や手書きの温かみを活かした背景美術、エフェクトなどの映像表現が交わり、観客はいつの間にか滂沱の涙を流しているのだ。
先鋭的なキャラクターデザインと画面作りに「この作画でしか成り立たない」
最後に、本作で最も目を引く荒川眞嗣によるキャラクターデザインについても触れておこう。本作のようにキャラクターがデフォルメされている作品は日本のアニメにおいて数多くある…が、それでも本作が特徴的に感じるのは、登場人物たちがみな直線的なデザインになっていることにあるだろう。
デフォルメというと、キャラクターの等身を低く親しみやすいデザインにするために柔らかい曲線を用いて表現することが多い。しかし、本作でのデフォルメは親しみやすさと共に、“絵が動く”というアニメならではの快感を体感しやすくなっているように思える。もしかしたら本稿を読んでいる方のなかには、この独特さに違和感を感じた人もいるかもしれないが、安心していただきたい。冒頭の「ジュゼッペのテーマ」を観終えたころには、このキャラデザだからこそ強く感じるアニメーションの多幸感、そこに鳴り響く音楽と歌声といったミュージカルの強みが合わさり、ドラマチックの場面が生み出される。そんな本作ならではの魅力にトリツカレてしまっているだろう。
もう一点、キャラクターたちの瞳についても注目しておきたい。主に輪郭部分の直線的なデザインに目が行きがちだが、瞳については基本的に曲線となっていることにお気づきだろうか。この柔らかく繊細な眼差しが、なにかにトリツカレて輝くジュゼッペの瞳や真実に気が付いたペチカの瞳などなど…豊かな感情を観客にダイレクトに伝える役割を担っている。
公開後、SNS上では「シンエイ動画恐るべし!!!!!!」や「この作画でしか成り立たない」、「高橋渉監督の演出力が見事で、デフォルメされたアニメーションの良さを再確認」といった絶賛コメントが相次いでいる本作。シンエイ動画、そして高橋監督の新たな一歩という意味でもぜひ映画館でその世界観に浸ってほしい作品だ。
構成/MOVIE WALKER PRESS
※高橋渉の「高」は「はしご高」が正式表記

