A24が才能を認める『愛はステロイド』ローズ・グラス監督の映画作りの原点とは?「奇妙な世界の入口を案内してくれたのが、デヴィッド・リンチ」

A24が才能を認める『愛はステロイド』ローズ・グラス監督の映画作りの原点とは?「奇妙な世界の入口を案内してくれたのが、デヴィッド・リンチ」

タイトルからして、センセーショナルな予感が漂う。そして実際に観てみると、その予感をはるかに上回るサプライズが待っている…。気鋭のスタジオA24が贈る『愛はステロイド』(公開中)は、そんな1本だ。監督・脚本は、暴走行為に走るカトリックの看護師を描いた『セイント・モード/狂信』(19)でも世界に衝撃を与えたローズ・グラス。長編2作目となる『愛はステロイド』は、前作を上回る絶賛を受け、一躍注目監督となった。A24と組んだきっかけや、クリステン・スチュワートらキャストとの関係、そして自身の映画作家としての方向性などをグラス監督に聞いた。

ローズ・グラス監督が制作秘話を語る
ローズ・グラス監督が制作秘話を語る[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

トレーニングジムで働くルー(スチュワート)と、旅を続けるボディビルダーのジャッキー(ケイティ・オブライアン)が恋に落ちるも、裏社会を仕切るルーの父も絡んだ事件によって、2人の運命は思わぬ方向へ導かれる。いかにもA24らしい、チャレンジングかつ大胆なストーリーの『愛はステロイド』。どのような流れでA24が製作を手掛けることになったのだろうか。

観る者を呆然とさせる衝撃のクライマックスは「賛否両論を覚悟で」

町のフィクサーを父に持つルーと、流浪のボディビルダー・ジャッキー、2人の愛の行方は?
町のフィクサーを父に持つルーと、流浪のボディビルダー・ジャッキー、2人の愛の行方は?[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

「A24は前作『セイント・モード/狂信』の北米配給を手掛けてくれました。公開後、『次はなにを作りたい?』と聞かれ、製作から関わってくれる意向を示してくれたんです。彼らはとにかくオープンで、『愛はステロイド』の突飛なアイデアを話したところ、『それはすばらしい』と協力してくれることになりました。A24とイギリスのFilm 4の共同製作で、両社とも私に創作の自由を与えつつ、的確なアドバイスをくれたりして、幸運を噛み締めながら本作を進めていったんです」。

本作で観る者を呆然とさせる衝撃のクライマックスも、「共同脚本のヴェロニカ(・トフィウスカ)とストーリーを練り始めたころから、ひらめいていた」と告白しつつ、「一時は説得力のある、ありきたりな結末に傾きつつ、やはりあのようにしました。賛否両論を覚悟で」と話すグラス監督。どんなシーンになっているのか、ぜひ楽しみにしてほしい。

グラス監督にとっての、もう一つの幸運はキャスティングだった。ヴェロニカと共に、主人公ルー役について「顔を思い浮かべながら書いていた」というのがクリステン・スチュワート。そのスチュワートがオファーを快諾してくれたという。

ルー役のクリステン・スチュワートの「顔を思い浮かべながら(脚本を)書いていた」とグラス監督は明かす
ルー役のクリステン・スチュワートの「顔を思い浮かべながら(脚本を)書いていた」とグラス監督は明かす[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

「脚本が完成する前にクリステンに会う機会がありました。正直言うと、その時の会話はぎこちなくて、私の想いが伝えられたかどうか自信がありませんでした。それにもかかわらず、クリステンは引き受けてくれ、ここから製作がいっきに加速したんです。このルー役は、クリステン自身にかなり近いのではないでしょうか。雰囲気や態度といった側面です。もともとルーも含めて本作の登場人物は誰もが常軌を逸した行動をとり、好感が持てない可能性がある。それをクリステンの演技が覆したと言えるでしょう。彼女は“共感”を導く役割を果たしてくれました」。

すんなりと決まったスチュアートに対し、ルーの恋の相手であるジャッキー役を見つけることは難航を極めた。なぜならボディビルダーとしての肉体を持ち、なおかつ演技もできる女性という高難度の条件があったから。グラス監督は、撮影が始まる数週間前までキャスティング作業が続いていたと明かす。

【写真を見る】ボディビルダーであるジャッキー役にふさわしい、鋼の肉体美を披露したケイティ・オブライアン
【写真を見る】ボディビルダーであるジャッキー役にふさわしい、鋼の肉体美を披露したケイティ・オブライアン[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

「数か月のトレーニングではボディビルダーの肉体を手に入れることはできません。レスラーやボクサーの経験者も含め、多くの人のオーディションテープを見たのですが、ふさわしい人は見つかりませんでした。そこでキャスティングディレクターがXに広告を出したところ、ケイティ・オブライアンのファンが彼女に募集を教えてくれたのです。ケイティはジャッキー役に完璧でした。ボディビルの競技への出場を続け、『マンダロリアン』や『アントマン&ワスプ:クアントマニア』などで演技経験もある。ここまでの大役は初めてでしたが、彼女の出現は、私たちにとって“魔法のユニコーン”が舞い降りたような幸運でした」。


エド・ハリス扮するルーの父親。インパクト大の髪型だが、実はクリステン・スチュワートの父親に似ているとか!?
エド・ハリス扮するルーの父親。インパクト大の髪型だが、実はクリステン・スチュワートの父親に似ているとか!?[c]2023 CRACK IN THE EARTH LLC; CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION ALL RIGHTS RESERVED

もう一人、物語のキーパーソンとなるルーの父親は、「邪悪な家長でありつつ、予想外のなにかを感じさせる」という点で、名優エド・ハリスにオファーしたところ、引き受けてもらったという。本作のハリスは髪型からしてインパクト大なのだが、それはグラス監督が彼にアイデアを出してほしいと提案した結果だそう。ハリスは自宅のバスルームで後頭部に長いエクステを付けた写真を撮り、グラス監督に送った。グラス監督がその写真をスチュワートに見せたところ、なんと彼女の実の父親が同じ髪型をしていることが発覚。こうした偶然も「作品がうまくいく兆候」とグラス監督は受け止めた。

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