「シャロンは作品の心だろう」『バレリーナ:The World of John Wick』故ランス・レディック最後のインタビュー

「シャロンは作品の心だろう」『バレリーナ:The World of John Wick』故ランス・レディック最後のインタビュー

キアヌ・リーブスが伝説の殺し屋を演じる「ジョン・ウィック」シリーズの最新作『バレリーナ:The World of John Wick』(8月22日公開)。本作より、シャロン役の故ランス・レディックによる最後のインタビュー映像が公開となった。

シリーズを通して忠実なコンシェルジュ、シャロンを演じてきたランス・レディック
シリーズを通して忠実なコンシェルジュ、シャロンを演じてきたランス・レディック[R], TM & [c] 2025 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

シャロンは、ニューヨーク・コンチネンタルホテルの忠実なコンシェルジュであり、「ジョン・ウィック」シリーズ屈指の人気キャラクター。『ジョン・ウィック』(14)から第4作『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(23)まですべての映画シリーズに登場し、その紳士的で時に頼りがいのあるキャラクターが多くのファンに愛されてきた。しかし、そんなシャロンを演じてきたレディックは2023年3月に60歳の若さで他界。そのため、シリーズとしては本作が彼の遺作となる。

レディックは1962年、メリーランド州生まれ。大学時代はイーストマン大学で音楽を、イェール大学演劇学校で演技を専攻。「LOST」や「FRINGE/フリンジ」などの人気ドラマシリーズに数多く出演し、俳優のほかミュージシャンとしても活躍してきた。主な出演作に、『大いなる遺産』(98)、『サウンド・オブ・サイレンス』(01)、『ザ・ゲスト』(14)、『エンド・オブ・ステイツ』(19)、『ゴジラvsコング』(21)などがある。

レディックが演じてきたシャロンはシリーズの登場人物たちの奥深さや多面性を象徴するかのような存在だ。振り返れば、第1作で初登場したシャロンは華麗に仕事をこなす紳士的なコンシェルジュだった。そこから、第2作『ジョン・ウィック:チャプター2』(17)でジョンの愛犬を仕事外で預かる優しい一面を見せたかと思えば、第3作『ジョン・ウィック:パラベラム』(19)ではジョンと一緒に華麗な銃撃戦も披露した。

最新作の撮影が行われたのは、シャロンが劇中で死を遂げた『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の公開前の時期。本作は時系列が『ジョン・ウィック:パラベラム』の時点まで戻るため、レディックはシャロンを再演する機会を得ることになった。しかし、残念なことにクランクアップからわずか数週間後にこの世を去った。

公開されたインタビューでは、脚本を最初に読んだ時の印象から本作の主演を務めるアナ・デ・アルマスの演技、長年演じてきたシャロン役の変化についても語られている。今回の脚本を読んで、その新たな世界観に驚いたと同時に、そこにシェイクスピアの影響を感じたというレディック。これまでのシリーズと『バレリーナ』を比較しながら、ここまで拡大してきた“ジョン・ウィック・ワールド“について次のように分析している。

「最初の『ジョン・ウィック』は、登場人物たちが、文化的制約の中でそれぞれの個性を主張しようとしていたけれど、この作品はそれを家族のレベルまで広げている。『リア王』や『ハムレット』やギリシャ悲劇を想起したんだ」。その完成度の高さに思わず、レン・ワイズマン監督にシェイクスピアが好きなのか聞いてしまうほど、本作の脚本は彼の知性とマッチしたようだ。

続いて、インタビューはシリーズ初の女性主人公に抜擢されたアルマスの話題に。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21)で初めて彼女のアクションを見たというが、この映画の主人公イヴは、それ以上に「タフさが問われる」役であると同時に、「哀愁が感じられる」役でもあると分析。そして、アルマスはそうした「極めて繊細な演技を見事に演じ分けられる」稀有な俳優だと太鼓判を押している。劇中ではイヴがコンチネンタル・ホテルを訪れ、シャロンと会話するシーンも映し出される。アルマスとレディックの初共演シーンにも注目だ。

さらに、レディックの分析眼は作品や主人公ばかりでなく、自身が演じるシャロンにまで向く。これまで演じてきた他作品とは「まったく違う役」だと語りつつ、シャロン役について「この役を演じてワクワクしたのは、これまで経験のない役柄だったから」と振り返る。また、その考察はシリーズを通じたシャロンの変化にまで及び、「作品を通してシャロンの変化を追ってみると、最初はミステリアスなキャラクターだったが、次第に心を持った存在へと変わる。ジョンが作品の“魂”なら、シャロンは“心”だろう」と、本作のタイトルロールであるジョン・ウィックと双璧をなす重要なキャラクターだと静かに語り、最後のインタビューを締めくくった。


シリーズ屈指の人気キャラクター、シャロン。その最後の雄姿をぜひ劇場で見届けてほしい。

文/平尾嘉浩

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