アイドルとの二刀流でさらなる進化を遂げる久保史緒里『ネムルバカ』でますます光った演技力

アイドルとの二刀流でさらなる進化を遂げる久保史緒里『ネムルバカ』でますます光った演技力

女子の会話を横目に見ているようなリアル

安い居酒屋でダラダラと寝落ちするまで飲む入巣とルカ
安い居酒屋でダラダラと寝落ちするまで飲む入巣とルカ[c]石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

本作では石黒と阪元監督が共に得意とする、“普通の日常をおもしろく切り取った”数々の名シーンが次々に登場する。入巣が腹ペコで帰ってきたルカに“特製エビ天丼”を作ってあげる冒頭のくだりから、居酒屋で交される会話や当たると酒がメガサイズになるチンチロのひとコマ、ルカが説く“ダサいくる”な自称アーティストたちのことを入巣が「かわいそうな人たちですね」と一喝する一連、炊飯ジャーの米を慌てていた入巣が床にまき散らしてしまうトラブル、さらに驚愕の+αまで、どこにでもある日常が独特の空気とテンポで映しだされる。それらに思わずクスッと笑ってしまうのは、どれも誰もが一度は経験していて“あるある”と思えるエピソードばかりだから。

特にやりたいことがあるわけでもない入巣は、なんとなく古本屋でバイトする日々を送っている
特にやりたいことがあるわけでもない入巣は、なんとなく古本屋でバイトする日々を送っている[c]石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

それらを久保がアイドルの時のオーラを消し去り、平との絶妙なかけ合いや飾らない自然な芝居で体現しているのも大きい。2023年の『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』では、恋をしたホストに入れ揚げるキャバ嬢をどうしようもない人間の欲望を感じさせる芝居で演じていたが、すでに確立しているその“さりげなさ”や“普通さ”こそ久保の魅力。本作でも“素”とも思える普段着の姿で入巣になりきっているから、観る者はまるで彼女の普段の生活を覗き見ているような感覚で一喜一憂できるのだ。

魅力を覚醒させ輝きを増す久保史緒里

『ネムルバカ』というタイトルが持つ意味とは
『ネムルバカ』というタイトルが持つ意味とは[c]石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

ここまで読んでいただければ、“夢”や“才能”といったテーマも秘めた本作が、久保史緒里という“俳優”の魅力の上に成り立っているのがわかるはずだ。逆の言い方をするなら、それは「『ネムルバカ』という作品と出逢い、この世界を愛しすぎた」という公式コメントを残している彼女の本来の魅力が覚醒した証。俳優としてのキャリアはまだまだ浅いものの、自らの感情に正直な芝居と独自の佇まいでこれからますます輝きを増していくはずだ。次はどんな顔を見せてくれるのか?まだまだ目が離せない。


文/イソガイマサト

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