黒沢清監督「圧倒的な作品に出会えた!」第7回大島渚賞授賞式で早川千絵監督『ルノワール』に感謝
「第7回大島渚賞」授賞式が3月23日、丸ビルホールにて開催され、映画『ルノワール』(25)で本賞を受賞した早川千絵監督、審査員長の黒沢清、ドキュメンタリー監督で大島プロダクション代表の大島新、一般社団法人 PFF 理事長でぴあ株式会社代表取締役社長の矢内廣が登壇した。
PFF(ぴあフィルムフェスティバル)が2019年に新たなる映画賞として創設した「大島渚賞」。大島渚監督が高い志を持って世界に挑戦していったように、それに続く次世代の監督を期待と称賛を込めて顕彰するものだ。映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする若くて新しい才能に対して贈られる賞となっている。
「第7回大島渚賞」の受賞者、早川監督が脚本・監督を務めた『ルノワール』は、第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門でカメラドール(新人監督賞)の次点に選ばれた長編初監督作『PLAN 75』に続く早川監督の長編監督第2作で、2025年、第78回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品。デビューから2作連続でのカンヌ映画祭出品となった。映画では日本がバブル経済の真っ只中にあった1980年代後半の夏を舞台に、闘病中の父と仕事に追われる母と暮らす11歳の少女フキの物語が描かれている。
冒頭の挨拶で矢内は「大島監督が生前親しくされてきた方が少なくなってきていることを受け、この場で大島監督とのエピソードを披露してもらえないかとの依頼がPFFディレクターの荒木からありました」と切り出し、大島監督と大島監督の大学時代の友人との思い出を語ることに。発端は大島監督の友人が映画学校を作りたいとのことで、大島監督に理事長、学長をやってほしいという提案だったという。
大島監督は「学校で映画監督なんか作れない!」と断っていたが、昔の日本の映画監督は監督に助監督がついて企業内研修のような形で育成してきたことを例にあげ、学校で年に1本映画を撮り、撮影を通して新しい生徒を育成するカリキュラムを作ったらどうかと矢内がアイデアを出したところ、「それは面白い!」と前のめりになったという。すると大島監督は、自分が知っている世界中の映画監督、シナリオライターを連れてくる、とノリノリに。生徒も世界中から来てもらい、授業は英語、学校の場所もほぼ決まっていたところでバブルが弾け、残念ながら計画はナシになってしまったそう。「もし、この学校ができていたら、面白いことになっていたのではないかなと思っています」と懐かしんだ矢内は「その時の大島監督の情熱あふれる姿は、いまでも思い出されます」と笑顔を見せていた。
黒沢監督は「大島渚の片鱗がうかがえる人を探し出そうということで始まった賞ですが、大島渚の片鱗は簡単に見つかるものではななかった」とこれまでの歩みに触れる。「1回目の時から決めていたのは、賞の該当者を探す過程で、本当にすばらしい作品に出会ったらそれは文句なくそれが大島渚賞だということ。これはすごいというものは大島渚的と言えるのだと最初から決めていた」と力を込めた黒沢監督。「そう簡単には出会えなかったけれど、7回目にして圧倒的な作品に出会えたと思っています」と『ルノワール』との出会いが衝撃的だったと話した黒沢監督は、作品について「これまで観たことのないようなひと夏の体験もの」とし、「鈴木唯さん演じるフキというキャラクターが、最後には目の前にいる大人たち、社会を、すべてを断罪し、ある時はゆるす。神に近いかのような存在でひと夏のうちに成長しています。フキという少女のあり方は、社会、家族を客観的な眼差しで批判する。批判的な目で捉える。この捉え方は大島渚監督の『少年』の捉え方に似ているなと思いました」と説明。続けて黒沢監督は「子どもが主人公の映画ですが、これほど卓越した眼差しで社会を見通す映画は近年にはなかった。『ルノワール』の早川監督に大島渚賞を受け取っていただけることを名誉に思っています。おめでとうございました。そして、ありがとうございました」と早川監督へ称賛と感謝の言葉をたっぷりと伝えた。
「『ルノワール』はひとことで言って驚きの作品でした」と話した大島は「映画を観始めて5分で不穏な映画だと思った。ただならぬ作品だという印象を持った。この不穏さとただならなさが最後まで続いていくような作品で大変驚きでした」と大絶賛。「フキ役の唯さんと監督のオリジナル脚本の出会いは奇跡。これからも世界を驚かせていただければと思います」と期待を込めていた。
早川監督は過去の「大島渚賞」で「該当者なし」の年があったことに触れ、「さすがは大島渚賞だと感銘を受けました」と振り返り、「私の作る映画は(大島渚賞とは)縁遠いとなんとなく感じていました」と明かす。そのため今回受賞の知らせが届いた時は「とても驚いたというのが正直な感想です。子どもの頃から映画を作りたいという気持ちはあったけれど、なかなか一歩が踏み出せず、監督としては遅いスタートでした」と自身のこれまでを振り返り「いま、長編2本撮ることができて、ようやく映画を作れる環境を得て、また、共に映画を作る素晴らしい仲間も作ることができて幸せです」とニッコリする一方で、今回の受賞は喜ぶだけのものではないと続ける。
「一歩間違えると、あぐらをかき、ハングリー精神を失って、守りに入ったり、余計なことを恐れてしまったり、失敗を怖がったりすることが起こりうる状況」と自身の置かれたいまの環境に触れ、「そんななかで選んでくださった黒沢監督、荒木プロデューサーのお2人から慢心することなく全力で映画を作るために邁進せよ!と喝を入れていただいたと受け止めています」と感謝しながらも気持ちを引き締めたいとも語る。
大島監督の映画の思い出については「テレビでやっていた『戦場のメリークリスマス』が忘れられない1本です」とし、「中学生くらいの頃に観た映画で、ストーリーが理解できない、よく分からないと困惑しました。でも、強烈な引力につかまってしまって、分からないけれど目が離せず、ずっと観続けてしまいました」と熱弁。ラストの名シーンでは「胸を突かれて涙がボロボロ流れるという経験をしました。よく分からないと思いながら観た映画なのに、なんで泣いているんだろうと不思議でした」と当時の心境を説明。「映画というものはすべてが理解できなくても、不意に人の心をを揺さぶり、掴む力を、持つという強烈な体験。『ルノワール』を撮ろうと思った時に『戦場のメリークリスマス』を観たあの感覚、瞬間が、誰かに訪れるような映画にしたいと思っていました。なので、今回この賞をいただけることは、本当に光栄でうれしく思っています」と思いを語り、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/タナカシノブ
