アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第47回 対話
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第47回は異星人の代表者との対話試みるが…!?
ピンキー☆キャッチ 第47回 対話
身長は、7mはあるだろうかと感じた。全身は黒に近い深い緑色で、紫のような筋が至る所に走っている。左右4本ずつの太い脚が生え、遠目では細く見えたそれは一本一本が丸太のように太かった。その先には溶岩が固まったかのような黒く巨大な爪が尖っている。蜘蛛のようなカマキリのような、とにかく何かしらを捕食するのに長けた形状で、鎌に当たるのであろう腕は電柱ほどの長さがあり、先が鋭利な刃物のようだ。筋肉で肥大しているように見えた胴体は、よくみると頑丈な筋が集まって構成されている。眼と口かと思われる器官もその筋に覆われ、首の延長に見えた。ここまでの体躯であるにも関わらず足音が静かなことが不気味だった。無理に大きくした体ではなく、俊敏性も伴っている証拠だ。恐怖のあまり何も考えられなくなった都築は、小学校時代の体育館を思い出し、「この大きさが入ったらパツパツだろうな」などと幼稚な思考が頭をよぎった。吉崎は口を開けたまま「もうちょっと・・我々に似た・・形かと思っていたな」とつぶやいた。
まさに全員その思いだった。この地球のエンタメを満喫する異星人の画としてはあまりにもそぐわない、殺傷能力という概念を具現化したかのような存在だった。これまで出現してきた怪人達は、確かに奴らのほんのお遊びであったことを思い知らされる。生物として、種の生き残りを争う相手として、希望が無かった。一同はただそれを見上げ、恐怖と虚しい思いに包まれていた。
「さあ!お話しくださいな!私の創造主ですよ!!」
男の一言で都築は我に返った。そうだ、こちらはあくまでも話をさせてくれと要望したのだ。
「あの・・遠くまれ・・ありあとうごらいます」
舌が回らない。それに礼を言う相手でもない。自分でも何を言っているのか分からなかった。しかし極度の緊張を共有している周囲の連中は何を言うはずもない。察した吉崎が口を開いた。
「さっき・・彼はあなたを代表者だと言いました。あなた方は・・仲間は他にどれくらいいるのか、それを伺いたい」
そこにいた全員は、後頭部付近に細い針のようなものが刺さった感覚を同時に憶えた。痛みはなく、髪の毛を一本抜かれたような。
『こちらに失礼しますよ。この声は皆さんに共有されています』
静かにだが、頭蓋骨に響くような声が聞こえた。少し機械音に近い女性のような声だ。語り口こそ丁寧ではあるが、地球の言葉を用いるためにデータとしての言葉遣いであろうことは感じた。
『私たち種族はコミュニケーションの際に言葉を発さなくなって久しい。不必要な声帯は退化していますので、この返事は中枢神経に直接届けています。私たちの種族が暮らす星は、この地球よりも少し大きく、全体数はあなた方人類の半分ほどでしょう。この惑星へ出向いているのは私を含めて28名です。他に質問は?』
「この星の、地球のエンタメが目的なのは彼に聞いた。それで、今後はどうするつもりだ?」
吉崎がほんの少しだけ怒気をはらませた。
『はい。この星の生物同士での捕食や殺し合いの鑑賞を予定しています。転移装置はご存じですね?全ての生き物を一堂に集め、最後の1匹になるまで続けていただく。この星でのエンターテインメントも様々なサバイバルの要素が用いられているでしょう。スリリングであり、本能がむき出しになった様は滑稽でもある。極上のエンターテインメントだと思います』
この話の概要は先ほど男からも聞いていた。しかしこうして“主”から聞かされると絵空事ではなく、生々しい絶望として迫ってきた。彼らにはそれが可能であることが今では強く理解できる。都築は懸命に歯を噛み合わせ、舌の根に力を込めて問いかけた。
「あなた方が高度な文明と科学力を持っているのは理解しました。その・・・目的も。もう一つ教えて欲しいのは、あなた方の種族には心が・・慈悲の心というものはありますか?私たち人間に備わっているそうした感情は持ち合わせていますか?」
慈悲という言葉を用いること自体が完全な敗北宣言であった。それは分かっているが、ここから先の攻防は肉弾戦ではなく、交渉だ。自分たちのネゴシエイトに地球の命運が掛かっている。
『生存本能に基づいた行動原理を感情と呼ぶのであれば備えています。あなたの言う『慈悲』もその中の一種で、正確には『慈悲』と呼称される種の防衛本能です。生物には個別と種属の利を守るそれぞれの本能が備わっており、慈悲は種族防衛本能でしょう』
「ならば!あなた達の単なるエンターテインメントで殺されようとしている我々人間の種族へ憐憫の感情も湧くものでしょう!?」
『いいえ、種が異なりますから。もちろん我々種族の利が優先されます』
一堂はその冷静さと冷徹さに背筋の凍る思いがした。答えに絶対的な一貫性と理屈としての正しさがあり、都築も吉村も継げる言葉を失った。
「あのぉ・・」
静寂を破った主は七海だった。七海が小難しい理屈をこねる時特有の、眉間に皺を寄せた表情だ。
「しゃしゃり出るようでごめんなさい。私からもいいですか?」
「どうした七海?」
七海は都築を一瞥すると“主”に歩み寄り、口を開いた。
「地球のエンタメ、全然消化してなくないですか?」
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。
