『平場の月』堺雅人&井川遥、上映後の会場から熱いスタンディングオベーションを浴び「感激しています」
第32回山本周五郎賞を受賞した朝倉かすみの同名小説を映画化した『平場の月』の初日舞台挨拶が11月14日にTOHOシネマズ日比谷で行われ、堺雅人、井川遥、坂元愛登、一色香澄、土井裕泰監督が出席した。
『花束みたいな恋をした』(21)の土井裕泰監督がメガホンをとった本作。中学時代の同級生である男女が再会し、離れていた35年のときを埋め心を通わせていく姿を描くリアルでせつないラブストーリーだ。上映後の会場から、熱いスタンディングオベーションで迎えられた登壇者たち。壇上にラインナップし、全員そろってお辞儀をしてからも万雷の拍手は鳴り止まず、映画の感動を伝えようとする観客を前にそれぞれが感無量の面持ちを見せた。
妻と別れ、地元に戻って慎ましく生活する青砥健将役を演じた堺は、「舞台袖で井川さんとも話していたんですが、(上映後に)のこのこと出てくる感じで、お客様の興醒めになってしまったら大変だなと思っていた」と切り出し、「とても温かい拍手を長時間いただいてホッとしています」と安堵の表情。青砥が中学生時代に想いを寄せた初恋の相手、須藤葉子役の井川も、「本当に感激しています」と観客の拍手に胸を熱くしていた。
そして中学時代の青砥役を演じた坂元は、「入ってきた時の皆さんの温かい空気に触れることができて、すごく幸せです。改めて映画が好きなんだなと、一人で感じています」としみじみ。中学時代の須藤葉子役の一色は「こうして無事に初日を迎えることができてすごくうれしいです」と喜びをあふれさせていた。
改めて会場を見渡した堺は、「一人ずつ、お茶を飲みながらゆっくりお話を伺いたいくらい」と観客の感想が気になっている様子。「意地っ張りな須藤のかわいさと悲しさ、魅力。それを見守る青砥。僕は原作を読んでいても、『あの関係性は、僕だったらどうするかな』『そこが須藤のいいところなんだよな』と後から後から、いくらでも言葉が出てきた。皆さんもそうなっていただけたらうれしいなと思っています」と願いながら、「不思議な物語なんだなと思います。名前の付けようがないというか、ラブストーリーなんだけれど、ラブストーリーだけではない気がする。大人の恋だけれど、大人だけではなく、その裏には中学時代の恋がずっと続いている。宣伝でも説明しようとすればするほど、するすると逃げていく言葉がある」と味わい深い、物語の魅力に触れた。
星野源が書き下ろした主題歌「いきどまり」が、映画の余韻を深める。堺は「“いきどまり”というのは、“行く”と“止まる”の複合動詞ですが、“生きる”と、“留まる”の意味もあるのかなと思った時に、立場と意味がグッと反転した。“さよなら”だと思っていたものが、“さよならじゃない”と思った瞬間に、ゾゾッと来ました」と熱っぽく語り、「タイトルをひらがなにした意味が絶対にあると思うので、星野源さんはなんとすばらしい言葉を最後に残してくれたんだと思った」と惚れ惚れ。土井監督も「星野さんのブレスが終わるまでが、『平場の月』という映画なんだなと思えた。言葉の奥にあるものがいろいろな意味に聴こえてきて、もしかしたらこれは須藤の目線の感情かもしれない、やっぱり青砥なんじゃないか…などいろいろと想像させてくれる。すばらしい歌をいただいた」と星野に感謝しきりだった。
大人びた線の太さを残しつつも、どこか儚く、切なさを感じる女性という難役に挑んだ井川は、「一筋ではいかない、一人で生きていくんだという意地っ張りなところがある」と役柄を分析。本心を見せないで生きている須藤が、青砥と過ごすなかで見せる変化をどう表現したらいいかと「日々、悩んでいた」という。もがきながら演じたと振り返りつつ、「いろいろなことを考える役だった。堺さんと監督と3人で、一つ一つ作っていきました」とチームワークの結晶だとお礼を述べていた。また思い出深いという自転車の二人乗りのシーンに話が及ぶと、堺は「ひゃっほーいってやっていました(笑)。無邪気な井川さんの姿がとても楽しくて、こちらもワクワクしちゃって」と井川と一緒に笑顔をこぼすなど、息ぴったりの様子を見せていた。
最後に堺は、「名前の付けようのない、でも確実に心にさざなみが起こるような作品」と完成作について表現。「ぜひ名前を付けられる方は、付けていただいて。付けられない方はさざなみのまま、周りの方、もしくは自分の心のなかに持っていただければ、作品に携わった者としてこんなに幸せなことはないです。すばらしい原作小説から始まったこの映画が、皆さんの心に届いたことを喜んでいます」と幸せを噛み締め、大きな拍手を浴びていた。
取材・文/成田おり枝
