インド映画ブームの仕掛人が『KILL 超覚醒』監督に聞く、新時代を切り開くアクション設計

インタビュー

インド映画ブームの仕掛人が『KILL 超覚醒』監督に聞く、新時代を切り開くアクション設計

インドからまたまた凄い映画がやってきた。ニキル・ナゲシュ・バート監督の『KILL 超覚醒』(11月14日公開)は、“歌って、踊って、長時間”というインド娯楽映画のイメージを完全に覆す超過激なノンストップ・バイオレンス・アクション。舞台は爆走する逃げ場なしの特急寝台列車。凶悪な武装強盗集団の襲撃で地獄と化した車内で、強盗たちの残虐行為に怒りを爆発させた特殊部隊の最強軍人が、たった一人で悪の軍団を粉砕する、息もつかせぬ緊張と興奮が怒涛のごとく押し寄せる驚異の105分。『燃えよドラゴン』(73)、『マッハ!』(03)、『ザ・レイド』(11)などの歴史的格闘技アクションに肩を並べ、『ランボー』(82)や『ジョン・ウィック』(15)といったワンマン・アーミー映画史にも記憶されるエポックメイキングな傑作の誕生だ。

インド映画ブームの仕掛人・江戸木純が、ニキル・ナゲシュ・バート監督にインタビュー!
インド映画ブームの仕掛人・江戸木純が、ニキル・ナゲシュ・バート監督にインタビュー![c]2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.

「インドの観客のニーズも多様化しており、斬新なテーマやスタイルの映画を作ろうとしている」

この凄い映画を創り出したニキル・ナゲシュ・バート監督は、これが長編4作目。アクションに精通したこのジャンルのベテランかと思ったら、意外や意外、アクション映画は初めての挑戦とのこと。現在Netflixで配信されている監督第2作のブラック・コメディ『不死身のブリジ・モハン』(18)など、これまで撮った映画はすべてミュージカル・シーンが一切ない非マサラ・ムービー。近年、インド映画も劇的に変化しつつあるという。

「アクション映画を撮りたいというより、私が大学生の時に実際に遭遇した列車強盗の強烈な体験をモチーフにした作品を作りたいと脚本を書き始めました。その時の恐怖や緊張感を描いていくなかで、世界的なコロナ禍とロックダウンのタイミングも重なり、結果的に作品の70%以上がアクションの映画になりました。もちろん私はアクション映画の大ファンで、『燃えよドラゴン』や『ランボー』を繰り返し観ていますが、それと同じくらい『東京物語』や『殺人の追憶』など、感情を刺激してくれるリアルなドラマが大好きです。この映画で私が目指したのは、主人公のリアルな感情の変化を観客に伝え、同時体験してもらいたいということでした。いま、インドでは配信プラットフォームを通して世界中の国々の様々なジャンルの映画やドラマを自由に見ることができます。それにより、インドの観客のニーズも多様化しており、作り手たちも常に斬新なテーマやスタイルの映画を作ろうと努力しています」。

本作の主人公で対テロ特殊部隊の隊員、アムリト
本作の主人公で対テロ特殊部隊の隊員、アムリト[c]2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.

監督が言うように、映画は全編、登場人物たちの精神的、肉体的両面の“痛み”を観る者に感じさせるパワフルでエモーショナルな格闘の連続。そのリアリティはCGやワイヤーワークを過剰に使って、ほとんどファンタジーと化していることが多かった従来のインド映画のアクションとは明らかに別物だ。そして、そのエモーションに直結したリアルなアクションと徹底的なバイオレンス演出は、どこか韓国映画に共通するものが感じられる。というのも、アクションの設計を手掛けたのは韓国のオ・セヨンと彼が率いるチーム“トリプルA”。『復讐者に憐れみを』(05)、『神弓 KAMIYUMI 』(12)、『コンフィデンシャル/共助』(18)、『バレリーナ』(23)などの韓国映画はもちろん、『WAR ウォー!!』(19)、『タイガー 裏切りのスパイ』(23)、来年公開の『WAR/バトル・オブ・フェイト』(25)など、インドの大作も数多く手掛ける彼らの貢献力は大きい。

「実は韓国のチームを最初からイメージしていたわけではありませんでした。インドではアクションシーンはアクション監督がすべてを仕切り、カメラ位置まで指定するのが一般的なのですが、私はすべてのシーンを自分が演出し、カメラのアングルも決めるというスタイルで撮影したいと思っていました。何人かのインドのアクション監督に相談しましたが、それを受け入れてくれる方が誰もいませんでした。そこで、信頼できるスタッフからオ・セヨンさんを推薦され、彼と話したところ私の意図を完璧に理解してくれ、彼と彼のチームがリアリティにこだわり、同時にエモーショナルなアクションを設計して期待以上の仕事をしてくれました」。

「アクションができることより、主演スターとしての華があるかが重要」

すべてのアクションの細部にもこだわったというニキル・ナゲシュ・バート監督は、かなりの映画マニアらしく、作品の端々にも彼の映画体験が大きく反映されている。インド公開時のインタビューでは撮影の際に意識していた作品は、同じ密室での極限状況を描いていたリドリー・スコット監督の『エイリアン』(79)と答えていたが、意識した作品、参考にした作品についてさらに聞いてみた。

「アクションやサスペンスをどうやってエモーショナルに描くかという点で、韓国映画には大きな影響を受けました。『新感染 ファイナル・エクスプレス』は列車という設定も近いですが、それ以上に様々な感情の演出がすばらしかったですし、怒りが爆発する過程の表現では『オールド・ボーイ』も私の描きたいものに近いと思います。あと『悪女/AKUJO』という作品のアクション表現も凄いと思いました。韓国映画だけではなく、香港のジョニー・トー監督の作品も大好きで、彼の感情表現は常に演出の参考にしています。作品では『エグザイル/絆』、『MAD探偵 7人の容疑者』、『名探偵ゴッド・アイ』が特に好きです。もちろんハリウッドの映画やインド映画もたくさん見ていますし、好きな作品や影響を受けた作品は多いですが、いろいろありすぎてあげきれません」。

狭い列車内で激しいアクションが繰り広げられる!
狭い列車内で激しいアクションが繰り広げられる![c]2024 BY DHARMA PRODUCTIONS PVT. LTD. & SIKHYA ENTERTAINMENT PVT. LTD.

『KILL 超覚醒』は作品自体の衝撃と共に、「ポロス〜インド古代英雄伝〜」などテレビドラマを中心に活躍していた主演のラクシャというニュー・スターの本格的な映画主演作であり、国際的なブレイクのきっかけとなる重要な作品ともなった。彼の起用と彼との仕事ぶりについても監督は熱く語る。


「アクションができる、できないというより、演技が上手く、主演スターとしての華があるかが重要でした。同時にこの作品は、撮影期間はもちろん、各種トレーニングなどの準備にも時間がかかることはわかっていましたので、俳優自身の協力が不可欠でした。当然ですが、何年もスケジュールが埋まっているようなビッグネームの映画スターは使えません。映画進出への意欲を持ったラクシャがこの企画に参加してくれて本当にラッキーでした。彼はコロナ禍のなか、半年以上の演技のワークショップでキャラクターを自分のものにし、過酷な武術やアクションのトレーニングを重ねて強靭な肉体を作って作品に臨んでくれました。これほどまでに献身的な俳優と仕事をしたのは初めてです。できれば、彼とは今後も一緒に仕事をしていきたいと思っています」。

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