狙いは興行的成功よりもアカデミー賞?ディカプリオ主演『ワン・バトル・アフター・アナザー』がPTA作品初の北米No. 1デビュー!
先週末(9月26日から9月28日まで)の北米興収ランキングは、ポール・トーマス・アンダーソン監督(以下、PTA)とレオナルド・ディカプリオがタッグを組んだ『ワン・バトル・アフター・アナザー』(日本公開中)が初登場No. 1を獲得。先月上旬のお披露目以降、世界中の映画関係者から激賞が巻き起こっている本作を、ここでは数字面からチェックしていくことにしよう。
北米3634館で公開された本作は、初日から3日間で興収2200万ドルを記録。公開前から興行的な苦戦が予想されていたことを考えるとまずまずの数字ではあるが、製作費が1億ドル以上(1億4000万ドルにのぼるともいわれている)という、PTA作品としては異例のハイバジェット。海外興収(初動で3000万ドル程度)で爆発的に伸びるタイプの作品でもない以上、およそ4億ドル前後と推測される損益分岐点への到達はかなり困難なところであろう。
PTAといえばクリストファー・ノーランやドゥニ・ヴィルヌーヴと並び、現代ハリウッドの50代監督において、作家性と娯楽性、そして映画技術に対する絶対的な感性を備えた作り手のひとり。商業デビューから丸30年で手掛けた長編映画は今回が10本目。アカデミー賞では無冠ではあるが、作品賞と監督賞に3回ずつ候補にあがり、脚本賞・脚色賞は計5回ノミネート。世界三大映画祭すべてで監督賞を受賞していたりと、群を抜いた賞歴を有している。
その一方、興行面でいえば先述のノーランやヴィルヌーヴのようなブロックバスターを手掛ける監督ではないため同列で判断するのは難しい監督でもある。これまでのフィルモグラフィでは北米興収4000万ドル&全世界興収7500万ドルの『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)が最高成績であり、同作の製作費は2500万ドルだった。公開規模も、基本的に賞レースねらいの作品が多いことから数館での限定上映から1000館前後への拡大公開に踏み切るケースがほとんどであり、今回のように2000館を超えたことはなかったのである。
そのため初登場No. 1獲得というのはPTA作品史上初、ましてや週末興収ランキングでのトップ3入りも初めてということになる。もちろんディカプリオを起用した効果は絶大なようで、近日中にもPTA作品最大のヒット作になることは確定的。ただ、いくら絶大な信頼が寄せられている作り手とはいえ、これだけのビッグプロジェクトの勝算はどこにあるのかは気になるところ。おおよそ興収的には格好がつく程度を狙い、本命はその先のアカデミー賞ということなのだろう。
ワーナーはアカデミー賞で毎年少なくとも一本は主要部門に候補入りを送りだす常連スタジオだが、作品賞は『アルゴ』(12)以来、監督賞も『ゼロ・グラビティ』(13)以来受賞できていない。批評集積サイト「ロッテン・トマト」によれば本作は、批評家からの好意的評価96%という高スコアを叩きだしており、すでに今年の主役候補との呼び声も高い。一昨年にノーランが『オッペンハイマー』(23)で頂点に立ったように、ここでPTAが作品賞や監督賞に漕ぎつくことができれば、ハリウッドは本格的な世代交代の時を迎えることになりそうだが、はたしてどうなるのか。
文/久保田 和馬