アルコ&ピース平子祐希、初の小説連載!「ピンキー☆キャッチ」第42回 監禁
MOVIE WALKER PRESSの公式YouTubeチャンネルで映画番組「酒と平和と映画談義」に出演中のお笑いコンビ「アルコ&ピース」。そのネタ担当平子祐希が、MOVIE WALKER PRESSにて自身初の小説「ピンキー☆キャッチ」を連載中。第42回は都筑が感じる違和感の正体とは!?
ピンキー☆キャッチ 第42回 監禁
慌てて鍵を回して窓を開けた。車の排気音や鳥の囀りが聞こえ、静かな日常の音がする。先ほどのチラつきも既に消えている。しかしどこか、妙な違和感があるのだ。
「風が無い・・」
ただ無風なだけかもしれない。しかし10階以上の高さで、空気の揺らぎがここまで無いのは考えづらい。都築はもう一度目を凝らし、違和感の正体を探した。この病院の建物の端、遠くに見える交差点が、何かこう少し、歪んでいるように見えた。薄いパネルが湾曲しているかのような違和感だ。反対側の歩道も同じだった。道路沿いに植えられた木の幹が、ごく微妙にだが不自然に曲がっている。都築は眼下に通行人がいないのを確認すると、吸い飲みを傾け水をこぼしてみた。
「・・・!これは!!?」
遥か下の歩道にこぼれ落ちるはずの水は、すぐ目の前1メートルほどの先の空中に浮いている。よくよく見ると浮いているというより、すぐそこに透明の床があるかのように散乱していた。
「映像・・映像で作られている風景なのか・・!?」
目の前の壁に触れてみると、ひんやりと冷たく硬い質感が手のひらに伝わった。痛む身体を振り絞り、拳で叩いてみた。「ダンッ」と反発はあるものの、鉄筋コンクリートの建物と考えると少々不自然な感触だった。都築は足を引き摺りながら扉まで歩くと、シルバーの取手にしがみついた。その瞬間、
『バチンッ!!!』
と破裂音がし、身体ごと大きく吹き飛んだ。ベッド横に激しく叩きつけられ、強い衝撃で5秒ほど呼吸が出来なかった。床に座り込んだまま動悸が収まるのを待ち、冷静になり、状況把握をする為に頭を切り替えた。
「まずは・・意図的に監禁されているのは分かった。問題は誰が、何の目的で・・。さっきの看護師に見覚えはない。あの爆発の後に誰かが俺を・・・」
都築は部屋を見渡した。
「カメラは確認出来ないが、監視はされているのだろう・・」
妙なのが、先程からの一連の行動を見られているだろうにも関わらず、向こうサイドからは何らアクションが無い事であった。監禁の意図がバレるのが構わないかのようだ。先程の電気ショックでまだ右手が痺れている。指を動かして感覚を確かめていると、ハッとした。
「電気が流れているのであれば・・!」
都築は吸い飲みを手にすると、先程の扉の隙間に水をかけた。途端にバチバチバチと火花が散り、遅れて白い煙が上がった。その激しさで人間に通電させるには危険な電圧だったことが分かり、ゾッとした。おそらく電気錠が掛けられており、それが外れたのだろう。ガコンッと大きな音が鳴り、扉が揺れた。外に何が潜んでいるか分からない。下手に動かない方がいいのは分かるが、ここにいて安全で無いのも分かる。病室にある中で唯一武器になりそうな空の花瓶を握り締め、恐る恐るショートした扉に手をかけた。扉を開けようと力を込めた瞬間だった。扉がガッと開き、驚いた都築は「ヒャッ!」っと短い悲鳴を上げ、再び床に転げた。
「いやぁ素晴らしい!!おめでとうございます!!」
驚きと混乱の中で都築は声の主を見上げた。目の前には紺色のスーツ姿の中年の男が立っていた。小柄で、髪は油で撫で付けられて綺麗な7:3に分けられている。手には黒い革表紙の本のような物を持ち、満面の笑みを浮かべていた。男はもう一度繰り返した。
「おめでとうございます!都築さん!!」
(つづく)
文/平子祐希
1978年生まれ、福島県出身。お笑いコンビ「アルコ&ピース」のネタ担当。相方は酒井健太。漫才とコントを偏りなく制作する実力派。TVのバラエティからラジオ、俳優、執筆業などマルチに活躍。MOVIE WALKER PRESS公式YouTubeチャンネルでは映画番組「酒と平和と映画談義」も連載中。著書に「今夜も嫁を口説こうか」(扶桑社刊)がある。