シリーズ最終章となる『MaXXXine マキシーン』タイ・ウェスト監督が、舞台設定の理由やハリウッドでの大規模ロケの裏側を明かす
独立系映画スタジオとして快進撃が続くA24製作の大ヒットシリーズで、『X エックス』『Pearl パール』(ともに22)に続く最新作『MaXXXine マキシーン』(6月6日公開)。このたび、“Xトリロジー“(3部作)すべての監督を務めたタイ・ウェスト監督が、制作秘話を明かすインタビューが到着した。
『X エックス』『Pearl パール』と、新作が公開するたびに支持層が拡大し、アメリカではハロウィンのコスプレの定番キャラクターにもなるほどの熱狂的なファンを生み出して、A24最大のヒットシリーズになったXトリロジー。最新作『MaXXXine マキシーン』によって、遂に完結を迎える本シリーズだが、実は最初から3部作として構想されていたわけではなかったとウェスト監督は語る。
「『X エックス』の脚本を書いている時は、まさか『Pearl パール』を作ることになるとは思っていませんでした」と明かすウェスト監督。さらに「観客が前2作を愛してくれたことで、この3作目が実現できました」と、前2作がスマッシュヒットを記録したことについて心から感謝しているという。
シリーズではあるが、時代やテイストがそれぞれ異なる3作。「どのようにフィールを決めていったのか?」という質問に対してウェスト監督は「3作共通のキャラクターが登場しますが、同時にこの3作はそれぞれが独立した映画でもあります。共通しているのは、“映画”という要素」だと指摘。
「『X エックス』では、登場人物たちが自ら映画を作ろうとしていました。『Pearl パール』では、主人公パールがハリウッド映画を観て、自分もあの世界に入りたいと夢を見ます。そして『MaXXXine マキシーン』では、マキシーンが実際にハリウッドで働くんです」とコメント。すなわち『X エックス』の登場人物たちが作ろうとするのは低予算映画だったが、『MaXXXine マキシーン』ではメジャースタジオによる大作映画制作の現場、ハリウッドが舞台となるということで「そこでも変革を描きたかった」と、狙いを明かす。
『MaXXXine マキシーン』の舞台は「正確にいうと、1985年夏のロサンゼルス」だとも語る。その理由について監督は「ナイトストーカー(1984〜85年にLAを震撼させた実在の連続殺人犯)がまだ捕まっていなかった時期で、(悪影響を与える可能性がある)音楽や映画、ホームビデオに対する検閲が行われていたんです。この3部作には“映画”に加えて、“抑圧”や“厳格vsリベラル”というテーマもあり、1985年のLAはそれらを描くのにぴったりの舞台でした。例えば、ほんの1年前ですが舞台が1984年夏のLAだったら、オリンピックが行われている頃なので、それではこのホラー映画にあまりおもしろいものをプラスしてくれませんからね」と述懐。
脚本執筆中には、当時のロサンゼルスの文化や社会状況を徹底的にリサーチしたとも振り返る。
「当時、どんな作品が映画館で上映されていたのかとか、それがまた別の情報につながっていき『あれも入れよう、これも入れよう』となりました。執筆中はどちらかというとストーリーを作ることに集中していましたが、そのあと、ちょうど(コカ・コーラの)『ニュー・コーク』が発売になった頃だから、それを店頭に置こうとか、ラジオからはどんな曲が流れているべきか、などを考え、どんどん新しいアイデアが形になっていきました」と振り返る。
ハリウッドで女性が成功するのは、いまよりもっと大変だった1985年。そんな状況で、マキシーンの才能を認める映画監督役として、エリザベス・デビッキがキャスティングされているが、その意図について監督は「マキシーンにとってのロールモデルとなるような存在を与えたかったから。業界で成功した女性がいることを見せて、『この女性ができたのなら、自分にもできるはずだ』とマキシーンが思えるようにしたかったんです」と説明する。
デビッキ以外にもリリー・コリンズやケヴィン・ベーコンなど最旬&ベテランの俳優たちが多数登場することでも注目を集める本作。キャスティングに関しては「僕が彼らにお願いしました」と明かす。
「彼らは『X エックス』と『Pearl パール』をすでに観ていてくれて『ファンでした』と言ってくれました。そして『小さな役でもいいから、3作目に出演したい』とまで言ってくれたんです。僕自身が彼らのファンだったから、まさか!と思いましたし、ありがたかったですね。自分はなんと幸運なのかと思いました」と喜びを口にする。
『X エックス』『Pearl パール』の2作はニュージーランドで撮影されたが、今回は一転、予算も大幅に増え、本場ハリウッドでの大規模ロケに挑戦した。ヒッチコックの『サイコ』(60)で有名な“ベイツ・モーテル”“サイコハウス”は、ユニバーサル・スタジオのバックロットにある実際のセットで行い、ハリウッド大通りを4日間封鎖し1980年代の空気感を徹底的に再現したロケセットでの撮影に挑んだ。
「予算は増えたけど、時間もお金も常に足りなかったです。でも、80年代のハリウッドをリアルに描くためには必要でした。ハリウッド・ブルバードを1980年代のように飾り立てるのは本当に大変でしたが、その価値は十分ありました」と自信を見せる。
ミア・ゴスの怪演っぷりに翻弄されるXトリロジーの完結編にして強烈なフィナーレとなる『MaXXXine マキシーン』をぜひ映画館で見届けていただきたい。
文/山崎伸子