ポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』が待望の北米デビュー!オスカー受賞の『ANORA アノーラ』は劇的なジャンプアップ

ポン・ジュノ監督の最新作『ミッキー17』が待望の北米デビュー!オスカー受賞の『ANORA アノーラ』は劇的なジャンプアップ

3週連続1位から陥落しても2位を守り抜いた『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』(日本公開中)の、順位とは裏腹の苦戦に引っ張られるようにして、本格的な閑散期に突入している北米興行。先週末(3月7日から9日まで)の興収ランキングは、トップ10作品の累計興収が前週比107.6%でまたもや5000万ドルに届かず、全体の総興収も同102.3%で5500万ドルほど。これを打破してくれるビッグタイトルの登場が一刻も早く現れることを願うしかない。

幾度も公開スケジュールが変更になり、ようやく公開を迎えた『ミッキー17』
幾度も公開スケジュールが変更になり、ようやく公開を迎えた『ミッキー17』[c]Everett Collection/AFLO

その期待がかけられていたのが、『パラサイト 半地下の家族』(19)でアカデミー賞を席巻したポン・ジュノ監督がハリウッド資本で手掛けた『ミッキー17』(3月28日日本公開)。先述の『ブレイブ・ニュー・ワールド』から首位の座を奪うことには成功したものの、初週末3日間の興収は1900万ドル。制作費1億1800万ドル、全世界でのP&A費は8000万ドルというビッグバジェットを考えると、少々苦しい出足である。

そもそも昨年の春に公開が予定されていた同作は、一昨年のストライキの影響で制作が遅延し2024年1月に公開延期。その後4月公開に再延期された後、3月公開へと前倒し。最初の延期は仕方ないにしても、何度も公開スケジュールが変更されるのは多くの場合、配給元の自信が強くないことのあらわれとみなされて批評面でも興収面でもマイナスになってしまう。ましてやポン・ジュノ監督にとってはオスカー受賞後最初の作品であり、キャリア最大規模の大作だけに尚更だ。

ポン・ジュノ監督作品で過去最大規模の大作に!プレミアム・ラージ・フォーマットでの上映が絶好調
ポン・ジュノ監督作品で過去最大規模の大作に!プレミアム・ラージ・フォーマットでの上映が絶好調[c]Everett Collection/AFLO

「Variety」の報道によれば『ミッキー17』の観客の65%は男性で、25歳から34歳が38%。人種はかなり幅広く、アジア系も13%を占めているとか。肝心の批評面だが、批評集積サイト「ロッテン・トマト」によれば、批評家からの好意的評価の割合は77%で、観客からのそれは73%。充分高いスコアではあるのだが、これまでのポン・ジュノ作品が軒並み超高評価だったことを考えると、もうひと伸び欲しかったところだろう。

特徴的なのは、IMAXを含むプレミアム・ラージ・フォーマット(PLF)での上映が週末興収の48%とおよそ半数を占めていること。ロサンゼルスとニューヨークといった都市部での成績が好調という点からもわかるように、ポン・ジュノ監督の支持層はアートハウス寄り。それでもブロックバスター作品が主となるPLFが興行の中心となっている点は興味深いことであり、ポン・ジュノ監督の今後に向けた第一歩と好意的に捉えることもできそうだ。

【写真を見る】『ANORA アノーラ』の“オスカー効果”は近年最高レベル!16週ぶりにトップ10へ返り咲き
【写真を見る】『ANORA アノーラ』の“オスカー効果”は近年最高レベル!16週ぶりにトップ10へ返り咲き[c]Everett Collection/AFLO

さて、前回の当記事でも大きく取り上げた、第97回アカデミー賞で作品賞など5部門に輝いた『ANORA アノーラ』(日本公開中)は、オスカー後最初の週末を迎えた。前週から1130館ほど上映館を増やし、一気にランキングでも7位まで浮上。ベストテン入りは昨年11月以来、実に16週ぶりのこととなる。累計興収は1839万ドルに到達しており、近年の作品賞受賞作(劇場公開作品のみ)で最も低い興収作品はこれまで通り『ハート・ロッカー』(09)に戻ったようだ。

注目は、前週からの興収の伸び率。ここ10年ほどのアカデミー賞作品賞受賞作の、受賞直後の週末の伸び率を見ると、最も大きかったのは『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(22)の474.9%。対して『ANORA アノーラ』は前週比673.7%(しかもその前週も、ひとつ前の週末対比242.2%だった)。他の受賞作は軒並み数字を落としているなかで、主役を飾った同作だけが“オスカー効果”の恩恵をたっぷりと受けることになった。


文/久保田 和馬

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