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稀代のチェス・マスター、その人生を辿ったドキュメンタリー

1970年代、米国人として初めてチェスの世界チャンピオンとなりながら奇行を繰り返し周囲から理解されなかったボビー・フィッシャー。トビ―・マグワイアが、フィッシャーを演じる映画『完全なるチェックメイト』(エドワード・ズウィック監督)が12月25日(金)に日本公開されることでも話題だ。

ボビー・フィッシャーは1943年生まれ、IQ187。母親に溺愛されて育ったフィッシャーは6歳でチェスを始め、14歳で全米チャンピオンの座につく。だが、周囲の過剰な期待や名声が少年の精神に悪影響を与えのか、過激な発言をしたり理解不能な奇行を繰り返すように。1972年の世界チェス選手権では、ソ連のチェス王者スパスキーとの試合を1時間で放棄。世界チャンピオンとなった後も、国際チェス連盟に試合出場のための「条件」を突き付け、それが否決されると試合を拒否、長らく隠遁生活に入る。

気まぐれで無愛想、常に何かに怒り、ぶつかり、それでも心の孤独が解消されることはなかった。やがてカルト宗教に傾倒し、1992年に米政府の警告を無視して内戦下のユーゴスラビアで対局したことから国外追放の身となる。ヨーロッパやアジア(日本にも住んでいた！)各国を転々とし、2008年アイスランドで孤独のうちに病死。

貴重なニュース映像や家族のインタビュー、同時期に活躍したチェス・プレイヤーの証言などで明かされていく天才の素顔。ソ連からチャンピオンの座をうばった英雄とも言われ、多くの賞賛を浴びながらも、その人生には多くの「もしも…」がつきまとう。「もしも時代が東西冷戦下でなかったら」、「もしも家族に恵まれていたならば」、「もしも凡人であったなら…」、それはボビー・フィッシャーでは、ないのだけれど。

監督は「マリリン・モンロー 瞳の中の秘密」のリズ・ガーバズ。