山崎努が村人32人殺しの狂気を怪演…!1977年版『八つ墓村』が創出したトラウマ級の恐怖に迫る
『砂の器』主要スタッフが再結集した『八つ墓村』
一方、松竹は橋本プロダクションと提携して、独自に『八つ墓村』の製作を開始。野村監督と橋本の脚本、川又昂の撮影、芥川也寸志の音楽という、『砂の器』を成功させた主要スタッフが再結集し、製作期間2年3か月、撮影期間は実質1年1か月がかけられた超大作として生みだされた。物語後半の主要舞台となる鍾乳洞は、岩手県から沖永良部島まで全国6か所の鍾乳洞で実際に撮影し、その映像美はほかの「八つ墓村」映画には真似できない迫力を持っている。
キャストも寺田辰弥役に、当時若者に絶大な人気があった萩原健一が起用され、ヒロインの森美也子役に小川真由美、ほかにも山本陽子、市原悦子、中野良子、下條正巳、大滝秀治、花沢徳衛など、豪華キャストがそろった。また島田陽子が夫に殺される多治見要蔵の妻役で一瞬登場し、のちにテレビドラマで金田一耕助を演じる吉岡秀隆が、辰弥の少年時代を演じて映画デビューしている。
2つの惨殺シーンがトラウマ級の恐怖を創出…
なかでもインパクトのある出演者が、尼子義孝役の夏八木勲と、多治見要蔵役の山崎努だろう。“八つ墓村”という村の名前は、約400年前に村人たちが、報奨金に目がくらんでこの地に落ちのびてきた尼子義孝をはじめとする8人の落ち武者を惨殺したことが由来とされ、この地には尼子の呪いが伝説として伝わっている。劇中ではこの惨殺シーンがショッキングで、竹槍が目に刺さり、刀で斬られた首が飛ぶ。このシークエンスの最後に、首を斬られた夏八木演じる尼子が、カッと目を見開き、怨霊と化して睨みつける表情が怖い。
辰弥が八つ墓村を訪れる28年前、この尼子の呪いを実践したのが辰弥の父、多治見要蔵。猟銃と日本刀を武器に、一夜のうちに村人32人を殺して回る要蔵の狂気の所業は、この映画の大きな見せ場になった。顔を白塗りにして、2本の懐中電灯を鬼の角のように頭に結び付けて殺しまくる山崎の怪演は、もはや生きた人間とは思えない。
小学生の時にこの映画を観た筆者の友人は、夜寝る時に山崎の顔が浮かんできて、怖くて眠れなかったという。また、原作では32人殺しが大正時代の事件で、要蔵は詰襟の洋服を着て、脚には脚絆を巻いているなど、見た目が軍装に近い。だが、映画では戦後に設定されており、要蔵は着物姿で走り回るので、余計に武士だった尼子一族の怨念とイメージがダブる。映画『八つ墓村』はこの2つの惨殺シーンをクローズアップしたことで、ホラー作品のイメージが強まった。
語り部に徹した名探偵、金田一耕助
また名探偵、金田一耕助を渥美清が演じたことも話題に。当時の渥美は「男はつらいよ」シリーズの寅さん役で人気。コメディアンのイメージが強い彼が、どんな金田一を演じるのか注目されていた。ただ、原作「八つ墓村」は辰弥視点で物語が進むので、金田一は時折登場しては辰弥にアドバイスしたり、状況説明をしたりする役にすぎない。映画のポジションもそれに近く、渥美は事件全体の語り部に徹している。
「男はつらいよ」ではテンポのいいテキヤの口上を披露しているが、ここでは感情を抑えて人々に語りかけるように、ゆっくりと事件のあらましを説明するのが印象的。また、途中で八つ墓村から消えた金田一が、様々な場所を訪れて調査する様子を、場所と時間のテロップを入れて見せる演出には、松本清張ものを作ってきた野村監督らしい、リアルに寄せた描き方が窺える。
ここでの金田一は、超人的な推理力を持つ名探偵というより、足を使って稼ぐ、地道な調査を重ねる刑事のような探偵で、そこが先行して映画化された市川崑監督&石坂浩二主演の金田一耕助シリーズとは、一線を画すところだ。『犬神家の一族』以降に作られた金田一耕助映画のほとんどは、市川&石坂が作り上げた、飄々とした風来坊探偵が推理力によって解決する、論理的なミステリーというイメージの影響を受けている。
しかし、この『八つ墓村』はホラー的な描写に力を入れ、一方では推理力よりも調査を重んじる金田一のリアルな人間像を描くことで、伝奇ロマンとリアルの境界線に立つ、独自の味わいを持つ作品になった。そのおもしろさを、今回の4Kデジタル修復版で多くの人に楽しんでいただきたい。
文/金澤誠
※山崎努の崎は、立つ崎(たつさき)が正式表記
