『盤上の向日葵』にも登場の真剣師とは?賭け将棋に生き、プロにも勝利した破天荒な生き様に迫る
プロ棋士として後世の育成にも尽力した“東海の鬼”こと花村元司
不遇のまま生涯を終えた小池と違い、真剣師からプロ棋士になったのが、“東海の鬼”花村元司九段(1917~85年)だ。花村が真剣師として活躍したのは戦前で、当時はイカサマも当たり前だったが、実力が認められ、1944年に特例で設けられた編入試験に合格してプロに転向した。その際、プロ棋士と六局指して三勝以上なら合格という条件のなか、花村は序盤で二連敗。これに慌てた支持者たちが、奮起を促すため賭け将棋を持ちかけたところ、花村は残り四局を全勝し、逆転でプロ入りを決めたという逸話も残る。
プロ転向後の花村は、森下卓九段、深浦康市九段らの弟子を育て、「だらしない生活をする者は将棋もだらしなくなる。だからきちんとした生活をしなさい」と指導するなど、人格者だったようだ。また、全盛期の小池重明とも町場の道場で「花村が勝てば1万円、小池が勝てば2万円」という倍層の条件で六局対戦し、四勝二敗で圧倒している。
“最後の真剣師”と呼ばれ、「朝ドラ」のモデルにもなった太田学
時代の変化と共に世間の風当たりも強くなり、80年代前半までに真剣師はほぼ姿を消したと言われる。“最後の真剣師”と呼ばれた太田学(1914~2007年)は1977年、朝日新聞社主催の第1回朝日アマチュア将棋名人戦に挑み、63歳で優勝の快挙を達成。その後、太田は大阪を舞台に真剣師の世界を描いた映画『王手』(91/阪本順治監督、赤井英和主演)で、将棋アドバイザーを務めると共に自らも出演。1996~97年に放送されたNHK連続テレビ小説「ふたりっ子」では主人公に将棋を指南する“銀じい”のモデルになったと言われている。
時代の陰に消えていった伝説的な存在、真剣師。その壮絶な生き様を、映画では名優、渡辺謙が熱演している。本稿を踏まえて鑑賞すれば、より深くドラマを味わえるに違いない。
文/井上健一
